Appleの最新プロセッサ「A5」、倍増したチップ面積の謎に迫る(前編):製品解剖 プロセッサ/マイコン(2/4 ページ)
A5プロセッサは、前世代のA4プロセッサに比べてチップ面積が2.3倍と大きい。シングルコアのA4に対し、A5はデュアルコア化されている。しかしそれだけでは、ここまでチップ面積が増える説明がつかない。なぜA5はこれほどまで大型化したのか。その謎を分析する。
歴史を振り返る
初代「iPad」とA4プロセッサが初めて公式に発表されたのは、2010年1月27日のことだ。初代iPadはメディアの話題をさらい、世界中の消費者が熱望する商品になった。一方、A4プロセッサは静かに、だが着実にApple製品への搭載を増やしていった。
2010年のうちに、A4プロセッサは「iPhone 4」と「iPod touch」、「Apple TV」に採用された。A4プロセッサはiPadの市場投入では「第2バイオリン」のような役割を演じたものの、それ自体の能力において素晴らしい仕事を果たしていた。A4はAppleが最初に設計したプロセッサというわけではない。しかし、恐らくは同社にとって最も重要な設計プロジェクトに位置付けられているはずだ。同社のiOS対応チップ群の中心的な存在になっており、それゆえに、民生機器を手掛ける巨大企業となった同社の大きな収益源の鍵を握っているからである。A4よりも前に同社が自社で設計したチップの中には、このような位置付けのものはない。
A4、そして今のA5の開発は、半導体の物語として捉える価値が大いにある。旧来の半導体ベンダーを「Appleのライバル」と呼ぶのは飛躍しすぎだろう。しかしそうした半導体ベンダーが、Appleが自社で設計するこれらの「Aシリーズ」のSoCを深刻に捉えていることは確かである。既存の半導体ベンダーは、Aシリーズの存在によって、自社の製品が採用される機会が少なくなったり、Aシリーズが大きな売り上げを生み出すのを目の当たりにしているからだ。
A4が発表された当時、業界で大きな議論になったのは、Appleが買収によって獲得した2つの設計チームが、A4にどの程度貢献していたかである。前述のP.A. Semiに続き、2010年4月にはAppleが低消費電力の組み込みプロセッサベンダーであるIntrinsityも買収したことが明らかになっていた。これら2社のうちP.A. Semiの方が比較的早くからApple社の内部にいたので、A4発表当時はP.A. Semiの貢献度に話題が集まった。A4が公式に発表される前に過剰なまでのうわさが流れていたため、筆者は物的な証拠を見つけることが重要だと判断し、2010年の夏に発表したA4に関する最終的なリポートで既存の複数の分解解析リポートをとりまとめた上で、独自の分析を加えている(参考記事:Apple A4プロセッサを分解、「革命」ではなく「進化」の産物)。そして、Appleが買収したPA SemiとIntrinsityがもともと設計していた回路がA4に搭載されているかどうかを、詳しく検証した。
1つの結論としては、Intrinsityの設計が組み込まれていることを示す証拠は確かに存在した。さらに筆者は、A4プロセッサはブロックレベルで見ると、Samsung Electronicsのアプリケーションプロセッサ「S5PC110」と非常に似通っていると結論付けた。これらから、A4はそれほどAppleの独自性が盛り込まれたチップではないといえる。分かったことは、A4とS5PC110の違いは2つの回路ブロックだけということだ。
A5はこれとは違うはずである。Appleには前世代のA4に比べて多くの時間があったし、Samsung Electronicsは2011年2月に発表した新型タブレット「Galaxy Tab 10.1」でNVIDIAのプロセッサ「Tegra 2」を採用している。
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