普及間近の環境発電、センサーとの融合で省エネと快適を両立へ:エネルギー技術 エネルギーハーベスティング(4/4 ページ)
太陽光や振動、熱、電磁波―。われわれの周囲には、普段意識されていないものの、さまざまなエネルギー源が存在する。このような微弱なエネルギーを有用な電力源として抽出する「エネルギーハーベスティング(環境発電)技術」に注目が集まっている。欧州や米国を中心に、環境発電技術を使った空調制御や照明制御スイッチの導入が進んでいるが、日本国内ではほとんど使われていないのが現状だ。それはなぜか。環境発電技術に特有の技術的な難しさや、最近の動向をまとめた。
欧州/米国では急速に広がる
さまざまな技術的な課題はあるものの、環境発電技術は、欧州や米国において急速に導入が広がっている。環境発電向けの半導体/電子部品を手掛ける関係者は、「欧州や米国では、ものすごく業界が盛り上がっている」と口をそろえる。
欧州や米国の導入事例を紹介するときに避けて通れないのが、ドイツに本社を置くEnOceanの動向である。EnOceanの発表によれば、2009年3月には10万棟を超す建築物へ、2011年6月時点の発表では20万棟を超える導入実績を有するという。「海外の導入実績は、ほぼEnOceanの事例だ」(EnOceanの日本国内における販売代理店を担当する加賀電子のGr.事業戦略室のマネージャーである木島圭一氏)という。
最も導入件数が多いのは照明制御や空調制御のアプリケーションで、全体の90%を超す。人がスイッチを押したときの機械的な変位をエネルギー源として制御信号を無線で飛ばすスイッチモジュールが広く使われている。さらに、照度センサーと連携して照明を制御したり、温度センサーや湿度センサーのデータを基に空調を制御したり、人感センサーで在室者の有無を検出して機器のオン/オフを制御するといった、一歩前に進んだシステムの導入も始まっている。「省エネを進めるとき、利用者や温度計や照度計を見つつ、機器の稼働を調整するのは、手間が掛かりすぎて、現実的ではない。センサーと環境発電技術を組み合わせてはじめて、省エネを進める際の手間を省ける」(同氏)。
EnOceanの取り組みを語る上で重要な点は2つある。1つは、同社は早くから環境発電に注目しており、この先端技術に特化した幾つもの通信モジュールを製品化していることである(図6)。しかも、「EnOcean Alliance」と呼ぶ業界団体を立ち上げ、同社の通信モジュールを世の中に広めるためのいわゆる「エコシステム」を既に構築している。EnOcean Allianceには200ものメンバー企業が参加しており、同社の通信モジュールを採用した750もの最終製品が販売されているという。
もう1つは、特許についてである。「EnOceanは、ハーベスタと無線を組み合わせた構成に関して、主要なほとんどの国で複数の特許を取得している。環境発電のシステムを実用化する上で、EnOceanの特許は避けて通れないだろう」(同氏)という。
一方で、「環境発電に特化した展示会であるEnergy Harvesting & Storage Europe 2011に参加したときに感じた各社の雰囲気だと、EnOceanの特許をあまり気にしていない様子に驚いた。EnOceanは環境発電に取り組む企業の1社にすぎず、EnOceanが市場を独占することはないと明言する大手ユーザー企業もあった。実際、スイスのAlgraといった企業も、押して発電するワイヤレススイッチを開発している。また、工業モニタリングの分野では、EnOcean Allianceの無線プロトコルは適用が難しいという指摘もある。Schneider ElectricやPhilipsなどの連合も、HEMS/BEMSでの有力な勢力になり得る可能性もあり、HEMS/BEMSのフィールドに限ってみても、EnOceanが現在の優位性を保ち続けるのは難しいかもしれない」(NTTデータ経営研究所の社会・環境戦略コンサルティング本部のシニアスペシャリストである竹内敬治氏)という指摘もある。
現在のところ、環境発電に関連した市場はEnOceanの一人勝ちの様相だが、今後もこの状況が続くのか、今のところ見通しははっきりしていない。
日本で導入が進まない理由
日本国内の状況はというと、欧州や米国の動きとは対象的に、ほとんど導入が進んでいないのが現状である。最近になって、幾つかの導入事例が出てきたという状況だ。環境発電向けの半導体製品を扱う企業の担当者のコメントを総合すると、「環境発電の通信モジュールを採用する企業は、この技術に対して確かに興味を持っている。ただ、導入というところまでは、なかなか進んでいない」ということのようだ。
日本で導入が進まない理由は、幾つかありそうだ。まず考えるべきは、環境発電の通信モジュールを採用した最終製品(例えば、照明や空調を制御するスイッチパネルなど)を日本企業が製品化していないことである。前述の通り、EnOceanの通信モジュールを採用した最終製品は750品種も用意されているが、これはすべて海外企業だ。
ゼネコンや不動産会社、建築物の設計会社、住宅メーカーといった企業が環境発電に対応した製品を採用するとき、当然のことながら不具合や故障が生じたときのメンテナンス性を重要視する。このとき、海外製の製品だとメンテナンスや保証の観点で二の足を踏んでしまっているようだ。
導入に要するコストや環境発電に対応した製品の動作信頼性も重要な観点だろう。環境発電を採用した通信モジュールというハードウェアだけで比較すると、従来とは比較にならないほど高価になる。従来は機械スイッチのみ、または無線回路と電池だけで済んでいたものが、ハーベスタや蓄電デバイスを含む複雑な構成となるからだ。ただ、環境発電を推進する企業は、「ハードウェアだけではなく、導入時の設置コストや導入後のメンテナンスコスト、消費電力の削減効果といった総合的な観点で比較すると、環境発電の製品を採用した方がコストメリットがある」と強調する。
現在、日本国内では環境発電技術を使った通信モジュールの開発や実証実験が進められている。前述の通り、実際に導入されたケースも幾つか出てきた。例えば、大型ショッピングモールの大規模な改装時に、全ての照明スイッチを環境発電技術を採用したスイッチに置き換えた事例がある。
これまでは一般に、大型ショッピングモールの大規模改装時には、工事のために何日か休業する必要があった。上記の事例では、環境発電技術を採用したスイッチを使うことで、5日間の夜間工事だけで作業を終えることができたという。「改装時にも通常通り営業を続けることができ、機会損失を出さずに済んだ。配線が不要になったことで、導入時の設置コストも大幅に減らせた」(加賀電子の木島氏)という。この事例では、横浜市に本社を構えるネットワークコーポレーションが、海外製の環境発電製品を輸入し、システムを設計した。
幾つかの導入事例が出てきたことで、今後、環境発電に対する心理的な採用障壁は下がっていきそうだ。「需要は相当量ある。今までにない新しいカテゴリの製品なので、慎重に検討を進めている状況だろう。日本での導入が進むのも、時間の問題だと感じている」(同氏)。
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