ペラペラの紙から電力を収穫、東大がどこにでも張れるアンテナを開発:TECHNO-FRONTIER 2011
東京大学大学院情報理工学系研究科の川原研究室は、環境中の電磁波を電力に変換するレクテナを開発し、「TECHNO-FRONTIER 2011」(2011年7月20日〜22日)に出展した。
東京大学大学院情報理工学系研究科の川原圭博氏の研究グループは、環境中の電磁波を電力に変換するレクテナを開発し、「TECHNO-FRONTIER 2011」(2011年7月20日〜22日、東京ビッグサイト)に出展した(図1)。
最大の特徴は、紙の上に銀インクをインクジェット技術で印刷して、レクテナを形成していることだ。レクテナを構成するアンテナと整流回路のうち、アンテナについてはすべて印刷で形成し、整流回路は配線のみを印刷で形成した*1)。「印刷技術を活用することで、低コストで薄いレクテナを実現できる。この手法でレクテナを実現しているのは、われわれの研究グループだけ」(川原氏)という。
これまでは、レクテナ単体で収穫できる電力量のシミュレーション/評価を実施してきたが、最近ではレクテナとマイコン、無線通信モジュールを組み合わせ、実際のアプリケーションにより近い状況で評価作業を進めている。
例えば、試作したレクテナ(中心周波数520MHz)を使って、東京タワーから6.5km離れた場所で、40秒に1回の頻度でセンサーデータ転送が可能であることを確認した。無線通信方式には、2.4GHz帯を使うTexas Instrumentsの独自プロトコル「SimpliciTI」を採用した。データ容量は3ビットで、伝送距離は5m程度である。
エネルギーをルーティングする研究も
現在、川原氏の研究グループでは、エネルギーハーベスティング技術やワイヤレス給電技術といった最近業界の注目を集めている分野に対し、情報通信を専門とする着眼点で研究開発を進めている。
上記のエネルギーハーベスティング技術に関しては、レクテナも含めたセンサーノード全体として、どのようにエネルギー収支を最適化するかといった研究を進めている。例えば、受信電界強度と整流効率の関係や、受信電界強度の変動がレクテナで生成する電力量に与える影響などを明らかにし、センサーノードの動作周期を最適化することで、センシング頻度を最大化する手法を開発した。
ワイヤレス給電技術に関しては、いわゆる「共鳴方式」に注目し、無数の受電コイルを敷き詰めた空間で、狙った受電コイルにのみ電力を伝える「仮想パス制御技術」の開発に取り組んでいる。受電コイルを共振させる/させないといった具合に、幾つかの受電コイルを選択的に使うことで、あたかも電力ケーブルが引かれているかのように、狙った受電コイルに無線で電力を送ることができるという。
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