「IntelのWSTS脱退は大きな過ち」、データの信頼性低下で業界発展の妨げに:ビジネスニュース オピニオン
Intelが世界半導体市場統計(WSTS)から脱退したことは、やはり業界に大きな影響を与えそうだ。「信ぴょう性の高いデータが取れなくなることで、半導体業界は、より高いレベルで繁栄する機会を失うかもしれない」――。米国のEE Timesで編集長を務める著者は、こう懸念している。
Intelは2012年2月に、世界半導体市場統計(WSTS:World Semiconductor Trade Statistics)から脱退したことを認めた(関連ニュース)。AMD(Advanced Micro Devices)も2011年に、同じく脱退している。これは、業界全体に警鐘を鳴らす行為だといえる。
今回Intelが脱退したことにより、WSTSが今後発表する全てのデータの信ぴょう性が疑われることになるのは目に見えている。このような不確実性が及ぼす影響は、極めて大きい。今後の開発計画を立てようとする半導体メーカーをはじめ、WSTSのデータを分析して市場動向を予測する市場調査会社、EE Timesを含む報道各社など、さまざまな企業が影響を受けることになるだろう。
こうした影響が明確に予測されるにもかかわらず、WSTSから脱退するというIntelの近視眼的かつ傲慢(ごうまん)な行為は、非難に値する。その理由として、「情報開示」と「交渉力」の2つを挙げたい。
筆者の見解では、半導体業界に限らず、どの業界でも、業界内で関連データが収集されなければ、さらなる発展を目指す上で必要とされる、経済力および政治力を判断するための重要な尺度を失うことになる。
中には、「Intelは今回、単にWSTSから脱退したというだけのことであり、なにも米半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)から脱退しようとしているわけではない」とする見方もあるだろう。確かにそのとおりかもしれない。しかし、WSTSはSIAと密に連携を取りながら活動しているのだ。一方、別の話になるが、実のところSIAからの脱退をもくろんでいる企業も数社あるという不穏なうわさも流れている。
業界メンバーの間でデータを公開することは、業界団体を構築する上で基本となる最初の一歩である。企業間でデータを共有することにより、各社とも、重要な統計値に基づいて業界の今後を予測できるだけでなく、必要に応じた措置を講じることも可能だ。このため、問題を未然に防ぐとともに、より高いレベルで互いの繁栄を達成することができる。
信頼できるデータが存在しなければ、どの企業も自社の判断だけに基づき対応しなければならない。もちろん、既に最大手の地位を確立した売上高トップの企業は、そんな心配は無用だろう。
ここで、1980年代および1990年代初頭に発生した貿易摩擦の中でも特に、日米半導体交渉のことを思い出さずにはいられない。
EE Times誌のワシントン特派員であるGeorge Leopold氏は、この日米半導体交渉について、「SIAにとって、その存在意義を証明した重要な出来事だった」と述べている。月ごとの出荷受注比率をはじめ、WSTSがまとめた数々の統計データがあったからこそ、SIAは、米国政府が日本との交渉を進める上で有利となる情報を提供できたのである。
このように、信頼性の高い業界データや業界情報がなければ、有利な交渉を進めることはできない。
その当時、米国の半導体業界にとっての最大のライバルは日本だった。業界団体が発展するためには優れたライバルの存在が不可欠だ。現在は、こうした“よきライバル”が不在だが、今後、米国の半導体業界にとって別のライバルが出現しないとは言いきれないだろう。
グローバル化の流れを受けて大半のメーカーがファブライト化を進め、製造自体への関心を失っていることから、業界団体の存在自体が過去のものになりつつあるとも言われている。
しかし、本当にそうなのだろうか?
それは違う。米国拠点の企業と米国政府は現在、製造業界の成長履歴を評価するための基準を復活させるべきかどうか、重大な岐路に立っている。半導体業界はおそらく、そのような再生には興味がないのかもしれない。あるいは、半導体業界が復活を試みるには既に遅すぎるのかもしれない。
だが、こうした悲観論にもかかわらず、断言できることはある。例えば、幅広い可能性を秘めたナノテクノロジー技術の出現だ。半導体業界は、産官学で連携して同技術の研究開発を進めることにより、今後チャンスをつかむことができるだろう。この大きな利益を生み出す金の卵がかえる時、半導体業界にとって、有利な取引交渉や富の分配を実現する上でこれまで以上に必要となるのは、独り勝ちの富裕な企業1社の存在ではなく、優れた業界団体の存在である。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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