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「超」高速無線LANがやってくる、IEEE802.11ac/adが変えるモバイルの世界(技術編)無線通信技術 Wi-Fi(4/4 ページ)

2012年以降に実用化されるデータ伝送速度が1Gビット/秒超の高速無線LAN。既存のIEEE 802.11nに比べて大幅な高速化が図られている。そこにはどのような技術が採用されているのか? 「IEEE 802.11ac」と「IEEE 802.11ad」の高速化を支える技術的な側面に焦点を絞って解説しよう。

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最大9GHz幅が使える60GHz帯

 次に、IEEE 802.11acからIEEE 802.11adに話題を移そう。両者の最も大きな違いは、利用する周波数帯域にある。「動向編」にもまとめた通り、IEEE 802.11adは60GHzという非常に高い周波数を使うことで、通信距離は短いものの、高いデータ伝送速度を実現している(図7)。

 具体的には、IEEE 802.11adは、図1に紹介した3つの方法のうち、非常に広い周波数帯域幅を利用することで、データ伝送速度を高めている。IEEE 802.11b/g/nで使う2.4GHz帯では合計で約0.1GHz幅、IEEE 802.11aとIEEE 802.11acで使う5GHz帯では合計で約0.4GHz幅が割り当てられているのに対し、60GHz帯では9GHz幅という非常に広い周波数帯域が使える(図8)。この9GHz幅を2.16GHz幅の4チャネルに分割して、それぞれのチャネルで高速にデータをやりとりする。

図
図7 今後、60GHz帯が必要となる背景をまとめた

 IEEE 802.11adの意義は、モバイル機器による60GHz帯の使用を当初から想定していたことである。もともと60GHz帯を使う研究開発は1950年代から進められていたが、民生機器に利用するには半導体チップの製造コストが高いといった課題があり、軍事衛星用やビル間通信、車載レーダーといった、ごく限られた用途に使われていた。

 状況が変わったのが2005年ごろからである。大量生産時に部品コストを下げられるシリコン(Si)材料のCMOSプロセスで、60GHz帯の無線チップを製造できるようになってきたことが大きな理由だ(関連記事60GHz帯無線通信が身近に、実用化には5つの技術課題)。2009年2月には、宅内で使う民生機器として業界で初めて60GHz帯の無線通信機能を採用したデジタルテレビが発表された。

 ただ、60GHz帯が宅内の民生機器に使われ始めた当初は、据え置き型のデジタル家電を対象にしており、消費電力も通信モジュールの寸法も大きかった。SiのCMOSプロセスを採用した60GHz帯チップの開発は現在でも活発に進められており、製造プロセスの微細化や採用する技術の工夫といった改良が進められ、ノートPCやタブレットPCに採用が見込めるまでに、小型化、低消費電力化してきている。

図
図8 60GHz帯の周波数帯域幅と、他の周波数帯域の比較 出典:NTT先端技術総合研究所のニュースリリースより (クリックで拡大)

いよいよモバイル機器で60GHz帯が使われる

 例えば、IEEE 802.11adは、モバイル機器に適した「シングルキャリアモード」を必須条件に、据え置き型のデジタル家電などの映像の伝送に適した「OFDMモード」をオプションに設定した。シングルキャリアモードは、OFDMモードに比べて低消費電力かつ、通信モジュールを小型化できる回路構成を採れる。

 この他、同じく60GHz帯の無線チップを手掛けるSilicom Imageは、Wireless HD方式に対応し、タブレットPCやノートPC、スマートフォンの外付けデバイスを対象にした参照設計「GameChanger」を2012年2月に発表した。同社にとって第3世代となる無線チップを採用しており、「通信モジュールの消費電力は標準1.5Wで、従来品に比べて大幅に削減した」(同社)という。既にサンプル出荷を開始している。

図
図9 東京工業大学とソニーが開発した60GHz帯の無線通信システム 60GHz帯に対応したRFトランシーバICとベースバンド処理LSI(BB LSI)で構成している。ソニーがBB LSIのデジタル回路部の設計とシステム全体の開発の取りまとめを担当し、東工大がRFトランシーバICとBB LSIのアナログ回路部の設計を受け持った。データ伝送速度は6.3Gビット/秒と高い。出典:東京工業大学大学院理工学研究科 岡田研究室 (クリックで拡大)

 まだ研究段階だが、東京工業大学大学院理工学研究科電子物理工学専攻の准教授である岡田健一氏と、ソニーの研究グループは、60GHz帯(57〜66GHz)に割り当てられた4つの周波数チャネル全てに対応しつつ、モバイル機器への搭載を想定した無線チップセットを開発した(図9)。さまざまな独自技術を盛り込むことで、高速データ通信と低消費電力化の両立を図ったことが特徴である。例えば、チップセットを構成するRFトランシーバICでは、回路寸法の小型化や低消費電力化が見込める「ダイレクトコンバージョン方式」を採用しつつ、高い高周波特性を実現している。

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