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世界を包む電子の神経網 ―― “モノのインターネット”が秘める可能性無線通信技術 M2M(3/4 ページ)

各種センサー端末から家電、インフラ機器まで、あらゆるモノに通信機能を組み込んでネットワーク化する、いわゆる“モノのインターネット”は、この地球に張り巡らされるエレクトロニクスの神経網だ。そこで捉えた膨大な情報から価値のある情報を抽出すれば、人類にとってさまざまな課題を解決する有力な手段になるだろう。

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エネルギーハーベスティングが有力に

 EmberのLeFort氏によれば、同社のチップを組み込む機器メーカーは、今のところほとんどが駆動用の電力を電源ケーブル経由で供給しているという。ただし同社は、エネルギーハーベスティング技術も研究しており、エンドユーザーがボタンを押下した際にその動きを元にZigBeeチップを一時的に動作させられるエネルギーを作り出すといった取り組みも進めている。さらに、米国のInfinite Power Solutionsのスーパーコンデンサを利用したエネルギーハーベスティングも検討しているという。

 同氏は、人が使うモバイル機器では、エネルギー源として二次電池(バッテリー)も利用価値があるとみる。エンドユーザー自身が意識的にその機器を充電された状態に保つことができるからだ。しかしM2M用モバイル機器は、人間が介在する充電は利用しにくいので、消費電力を極めて低く抑えることが必要条件になる。従って、バッテリーを搭載せずに済むように、エネルギーハーベスティングを積極的に導入していく可能性がある。

 前出のIntelのPawlowski氏は、「エンジニアは今後、電子回路の単位電力当たりの性能を重要な指標として意識する必要がある。もしチップの消費電力を十分に低く抑えられれば、次のステップではM2M端末の全電力をエネルギーハーベスティングによってまかなう技術を開発できるだろう」と話す。

ユーザーの信頼をいかに獲得するか

 さらにPawlowski氏は、他にも重要なポイントがあると指摘する。それは、特殊なセキュリティである。「ユーザーに関するデータを、プライバシーを確保しながら安全に保つだけでなく、インフラ自体も守れるようなセキュリティが必要だ。それが無ければ、モノのインターネットというコンピューティングの新たなフロンティアに対して、ユーザーからの信頼を積み上げていくことはできない」。

 半導体ベンダー各社の中で、モノのインターネットの信頼性を重要な注力ポイントとして掲げるのがTIだ。同社は、現在市場で製品化されているモノのインターネット対応デバイスのほぼ全てにチップが採用されていると主張する。同社のAmerasekera氏は、「現時点で、モノのインターネットの普及に立ちはだかる最大の障壁の1つは、ユーザーに認められた信頼性である」と言う。「例えばビルオートメーションで、無線化しても有線の場合と同じようにうまく機能するかどうか、ユーザーが心配するのは自然なことだ。それゆえに、次の5年間に求められるのは、新しいプロトコルである。少なくとも現在のプロトコルを改善しなければならない。それにより、非常に信頼性が高く、極めて安全ながらも、今よりも使用ビット数が少ないプロトコルを確立する必要がある」(同氏)。

チップベンダーにも有望な市場に

 TIは、モノのインターネットに対応した無線通信デバイスを実現するために必要なチップセットとプロセッサの統合において、一日の長がある。そして、半導体ベンダーの中で同社に並んで豊富な経験を有するのがQualcommとBroadcomだろう。

 Qualcommは、モノのインターネットの市場を次の3つのカテゴリに分けている。すなわち、携帯電話用モデムに基づくハイエンド分野と、Wi-FiやBluetooth、HomePlugを利用するミドルレンジ分野、低消費電力のZigBeeメッシュネットワークを利用するローエンド分野である。同社でプロダクトマネジメント担当バイスプレジデントを務めるNakul Duggal氏によれば、「これら3つのカテゴリは明確に分かれており、それぞれやりとりされるデータの帯域幅(伝送速度)が違う。その帯域幅に応じて、価格の水準も3つのカテゴリでそれぞれ異なっている」という。

図7
図7 Henry Samueli氏 出典:Broadcom

 Qualcommのカテゴリ分けには登場しないが、近距離無線通信技術であるNFC(Near Field Communication)も大きな可能性を秘めている。特に、採用するデバイスの数量規模で見れば、NFCはけん引役に躍り出るかもしれない。「NFCは既に標準化されており、5年以内には世界の携帯電話機で標準的な機能になる下地ができている」(Broadcomの共同創設者でCTOを務めるHenry Samueli氏)(図7)からだ。

 現在のところNFCの普及を後押ししているのは電子財布だが、他にもさまざまなアプリケーションが提案されている。例えば、“スマートポスター”だ。携帯電話のユーザーがポスターに埋め込まれたNFCタグをスキャンすると、広告の製品についてそのユーザー向けに用意されたデータが携帯電話機に転送されるといった仕組みである。

 BroadcomのSamueli氏は、次のように述べている。「今の時点では、当社が販売するチップセットで最も数量が多いのはたぶんWi-Fi製品だろう。次がBluetooth製品で、それに続くのがモバイル端末向けに携帯電話の通信機能を提供する製品だ。一方でNFCは、Wi-FiやBluetoothのような成熟期にはまだ達していないものの、今後の伸びが大きく期待できる。今後2〜3年のうちに、NFCはGPSとともに急速に成長するだろう。なぜなら、人々はNFC通信に対応できることに加えて、モバイルセンサーの位置情報も知りたくなるからだ。GPSもNFCも、公衆安全のためのアプリケーションや、今登場しつつある位置情報ベースのアプリケーションにとって、標準搭載の機能になるだろう」。

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