データ伝送速度が最大1.5倍に、富士通研が「MU-MIMO」向け信号分離技術を開発:無線通信技術 LTE-Advanced
富士通研究所は、次世代の幾つかの無線通信方式で採用される「マルチユーザーMIMO(MU-MIMO)」に向けた信号処理技術を開発した。自分宛ての受信信号だけを使って、他のユーザー信号の変調方式を高精度に推定・分離する技術だ。これを使うことで、データ伝送速度が最大1.5倍に改善されることをシミュレーションで確認した。
富士通研究所は、次世代の移動体通信システム「LTE-Advanced」を対象にした高性能信号処理技術を開発した。システム全体のスループットを向上させることができる「マルチユーザーMIMO」を採用したときに、端末側で高精度に自分宛ての信号を分離する技術である
計算機シミュレーションで信号分離技術の効果を確認したところ、多くのユーザーが同時に通信する状況(信号電力対雑音電力が20dB程度のとき)でデータ伝送速度が最大で約1.5倍に改善されたという。今後、推定精度の改善や実際の試作を進め、2015年ころの実用化を目指す。
自分宛ての信号だけを取り出したいが…
次世代の無線LAN技術「IEEE 802.11ac」やLTE-Advancedを採用した無線システムでは、複数の端末に信号を送信するときに、「同一時刻」、「同一の周波数チャネルで」、「複数端末へ干渉させることなく」、データを送り届ける「マルチユーザーMIMO」の採用が検討されている。マルチユーザーMIMOを採用すれば、基地局の能力を最大限引き出し、システム全体のスループットを高めることが可能だ。しかし、自分宛ての信号だけを端末側で取り出すために、いかに高精度の信号分離技術を実現するかが課題となっていたという。
「多数のアンテナを使ったアレイアンテナで高精度のビームを形成し、複数の端末に向けたそれぞれの信号がまったく干渉しないように伝送できる場合には、特に信号を分離する必要はないだろう。しかし、互いに干渉を与えるという現実的な受信状態のときにも、高い性能が確保できるよう、端末で信号を分離することを前提としたシステムを検討した」(富士通研究所)。
マルチユーザーMIMOの概略図 同一時刻、同一の周波数チャネルを使って、複数の端末に情報を届ける。送信側のビーム形成も重要だが、実際の環境で高い性能を実現するには端末側で信号を分離することも必要になる。
「MLD:最尤(さいゆう)検波」と独自の変調推定を組み合わせ
富士通研究所が開発した分離技術は、「MLD:最尤(さいゆう)検波」と呼ぶ高精度の信号分離技術に、独自の変調推定手法を組み合わせたことに新規性がある。
MLD法は、全ての送信信号候補(仮定情報)と実際の受信信号を比較し、最も確かな信号を判定する方法である。干渉源となる他の端末向けの信号を受信信号から分離する際に一般的に使われている「MMSE(最小平均二乗誤差)」法に比べて、高い精度で信号を分離できることが特徴だ。
ただ、MLD法を使うには他に端末向けの送信フォーマット(変調方式)をあらかじめ知っておく必要がある。LTE-Advanced規格では、他のユーザー向け信号の変調方式が端末に通知されない仕様になっているため、何の工夫も施さなければMLD法を採用することは難しかった。
そこで富士通研究所が新たに開発したのが、端末が受信した受信信号のみを使って、他のユーザー向け信号の変調方式を推定する独自の推定手法である。具体的には、他のユーザーに宛てた信号の変調方式の種類ごとに、受信した信号の状態が変化することを利用する。
他のユーザー向けの信号として幾つかの変調方式(QPSK、16QAM、64QAMなど)を仮定して混在信号の信号点の配置(コンスタレーション)を予想し、それが実際の受信信号と比べて最も近くなる変調方式を正しいと推定する仕組みだ。「実際の受信信号と予想信号が最も近くなることを評価する手法や、それらに含まれる複数のパラメータの決定方法など、さまざまな条件や環境に対応することや、信号処理量をなるべく抑えて分離性能を高める技術にノウハウがある」(富士通研究所)。
アルゴリズム自体は、ユーザー多重化されたケースや変調方式にパターンがあっても拡張できるが、処理量が大きくなってしまう。同研究所では、現状ではLTEの規格に合わせて2ユーザーまでに限定し、開発を進めている。
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