検索
ニュース

目指せ、全員参加のOJT! 〜若手育成に“組織学習”を生かす〜いまどきエンジニアの育て方(4)(2/2 ページ)

最近、OJTに「組織学習」という考え方を取り入れる企業が増えています。今回は、組織学習とは何なのか、また、それをOJTに取り入れるメリットは何かについてお話します。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

組織学習とは、一体何なのか?

田中

ところで松田課長、こないだ「組織学習」って言っていたけど、それって何なんだい?


松田

もともとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のピーター・センゲ(Peter M. Senge)教授が、「学習する組織」と提唱したのが始まりです。一言で言えば、「自ら望むものに一歩一歩近づいていける能力を、自分たちで高めていける集団(チーム)。それが“学習する組織”」です。


田中

学習するなんて、まるでAI(人工知能)みたいな組織だなぁ。分かったような分からないような……。


松田

組織は個人の集まりでしょう。ここでいう個人とは、主体性と成長の意志を持った人です。目標を共有し、協業する。互いに学び合うことで組織としても学習し、成長する。そのような考え方を組織学習と言います。組織と、組織に属する個人。それぞれが新しい知恵・価値を創造する。そんなグッドサイクルが、学習によって出来上がるという考え方です。


田中

理屈としては分かるような気がするけど、具体的にどうやって実現するんだい?


松田

では、この図を見てもらえますか?(図2) 少しイメージしやすいかもしれません。


図2 組織学習に必要な要素と関係性
図2 組織学習に必要な要素と関係性(クリックして拡大)
松田

この図は、学習する組織に必要な要素と関係性を分かりやすく示したものです。OJTは今までは先輩社員が行っていましたよね。しかし、開発現場を取り巻く環境が激変し、従来のOJTは機能しなくなっています。そこに、新しい価値観を持ち、個性重視で育った世代が入社するようになってきました。この図にある、「対話をする文化」や「人間関係」「信頼関係」などは希薄になったと思いませんか?


田中

確かに昔と比べるとそうだなあ。みんな忙しくて、じっくり話せる雰囲気もないし、僕らのような管理職側も、話を聞いて相手を受け入れる余裕すらない。


松田

そうですよね。でも、田中課長は、“共通項”を含んだ昔話を佐々木さんにして、うまく共感を得ました。それは「受け入れる文化」を作ったことになるんです。つまり、“新人・若手が組織の一員として受け入れられている”ことに他なりません。


職場ぐるみで若手育成に取り組む!

松田

最近は、組織学習の考え方の一部を、新人や若手の育成に適用し始めている会社もあります。「対話をする文化」「人間関係」「信頼関係」は一人では作れません。つまり、OJTを一握りの先輩社員だけに任せるのではなく、部門組織のメンバーが全員でOJTに取り組んでいるのです。要は新人・若手が育つ環境を職場のメンバー全員で作っていることになります。


田中

なるほど。職場ぐるみのOJTだね


松田

その通りです。その一方でこれからは若手側にも、“教わる”という受動的な姿勢よりも、“学ぶ(learning)”という能動的な姿勢が求められるようになると思います。OJTに代わってOJL(On the Job Learning)という言葉も登場してきました。ただし、もう1つ、「自発性をどのように引き出すか?」ということも重要になります。そうなると、育てる側が“アメとムチ”を上手に使い分けることがポイントになってくるんです。


なぜ組織学習が必要か?

 職場ぐるみで若手を育成することは、上司や先輩の成長にもつながります。若手を孤立させることもありません。たまたま相性が合わない先輩が1人いたとしても、代わりの先輩はいくらでもいるわけです。誰がOJTを担当するかによって若手の命運が決まるような幸不幸も起こりにくくなります。

 さて、そうは言っても、上司も先輩も忙しいわけです。組織学習の考えを生かして、職場ぐるみで育成するメリットはありそうですが、職場全員で新人や若手のOJTに取り組むことは、なかなかハードルが高いのも事実です。

 ここでキーポイントになってくるのが若手の“自発性”です。先ほど、松田課長が「アメとムチを使い分ける」と言っていましたね。


 さて、次回は、いかに佐々木さんの自発性を引き出し、アメとムチを使い分けるか、エンジニアの知的好奇心を高めながら、どのように困難を乗り越えていくかについてお話しします。

Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る