太陽電池の製造コストはどうなる――プラスチック製には勝機があるのか:エネルギー技術 太陽電池(3/3 ページ)
有機薄膜太陽電池は、Si(シリコン)を使わず、2種類の有機材料を混ぜ合わせて塗るだけで発電できる。軽量であり、量産性に優れていると考えられている。しかし、何十年も先行するSi太陽電池に果たして対抗できるのだろうか。産業技術総合研究所は、有機薄膜太陽電池の製造コストを見積もり、どのような技術改良が必要なのか指針を示した。
製造コスト引き下げに役立つ材料はどれだ
29円という製造コストには材料費や人件費、償却費、工場経費などさまざまなコストが含まれている(図4)。比率だけを見れば、セルを集積したモジュールの材料コスト10.5円/W(1.3m2、出力100W)や、セルの材料コスト6円/W(面積1m2、出力100W)が大きい。
29円からさらに製造コストを大幅に引き下げるにはどうすればよいのだろうか。
小西氏の結論は明確だ。「有機薄膜太陽電池の弱点は水分だ。有機物が水蒸気に弱い。そのため水蒸気の浸透を防ぐバリア材が必要になる。水蒸気に強い有機物を作り上げることができれば、バリア材をある程度省くことができ、現在のコストの一部、例えば4円分の引き下げが可能になるだろう。今から参入するのであれば、この技術に注力すべきだ」(小西氏)。
小西氏のいうバリア材とは、図4にある「PET&導電膜付きバリアフィルム」の3.5円/W(セル材料費)や、「外周シール材」の2円/W(モジュール材料費)である。これらの材料費は、もともと「OPV材料」(有機薄膜太陽電池で発電する有機物)よりも大きい。
水蒸気に弱い有機物の改良ではなく、バリア材側を低コスト化する開発方針もあり得る。だが、このような考え方は適切ではないという。「バリア材自体は枯れた技術であって、石油材料などのバリア材自体の原料コストを考えると、これ以上のバリア材の材料コスト低減は難しい」(小西氏)。なお、バリア材関連以外の材料コストも削減しにくいとした。例えば、モジュール材料費にある「ETFE, EVA」は5円弱/Wとコスト比率が高いものの、削減は難しい。「5円弱/Wのうち、大半がETFEのコストだ。ETFEは有機薄膜太陽電池の表面に汚れがつくことを防ぐ材料だが、10年近くにわたってほぼ同等の価格水準にあり、今後も引き下げは難しいだろう」(小西氏)。
太陽電池の低コスト化には量産規模の拡大や変換効率の向上が有効であり、有機薄膜太陽電池でもこれは変わらない。変換効率を高めるには、太陽光のうち波長の長い光を吸収しやすい有機材料の開発や、吸収する波長が異なる材料を重ね合わせる「タンデム化」が有効だ。これはSi系太陽電池と同じだ。しかし、産業技術総合研究所の分析結果からは、有機薄膜太陽電池特有の低コスト化戦略「耐水蒸気性特性向上」が浮かび上がってきた。
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