有機ELディスプレイ、「日本に勝機は必ず訪れる」:LED/発光デバイス 有機EL(3/3 ページ)
2012年内にも、SamsungとLGから、50インチを超える大型有機ELテレビが市場に投入される予定である。いまや韓国勢が先行する有機ELディスプレイ市場であるが、「材料面では日本がリードしている」と専門家は語る。
【3】韓国メーカーという巨大な壁
日本メーカーにとって最も大きな壁が、SamsungとLGという韓国メーカーの存在だ。有機ELディスプレイ市場に参入した時期こそ遅かったものの、両社は有機EL関連の知的財産を大量に手に入れており、特許の出願件数も多い。例えば、Samsungは有機ELディスプレイの製造に関する特許を、3MやNECから譲り受けている。また、LGはPhilipsやKodakから特許を手に入れている(関連記事)。
対韓国勢、材料では日本がリード
2012年の夏から秋にかけて、55インチの大型有機ELテレビを市場に投入してくる予定のSamsung ElectronicsとLG Electronics。どこまでのレベルで量産できるかは定かではないものの、製造面で韓国が先行しているのは間違いない。ただし、安達教授は「材料の分野では今でも日本がリードしている」と語る。そもそも韓国メーカーは、有機ELディスプレイの製造装置も、有機材料も日本から調達している。また、日本人技術者を引き抜いてもいる。安達教授は、「大型有機ELディスプレイの製造ラインの構築には何千億円という投資が必要になる。日本メーカーと、安い法人税や政府の支援という強みを持つ韓国メーカーとは、そもそも同じ土俵に立って勝負ができていない」と語る。「有機ELディスプレイは有機材料が肝心なので、しっかりとした基礎技術を確立することが必要になる。有機材料の炭素構造は無限にある。つまりは、新しい性能を持つ有機材料を開発できる可能性が大いにあるということだ。ただ、こうした材料の開発にはとにかく時間がかかるので、10〜30年という長いスパンで考えることも重要になる」(安達教授)。研究の層の厚みや、計画性が重要になるということだ。
逆転のチャンスはある
韓国メーカーは、蒸着法を用いて有機ELディスプレイを製造している。蒸着法よりも低コストで製造できる塗布法による量産技術で先行できれば、日本メーカーが巻き返しを図る大きな一歩となる。「有機ELは筋がいい技術」と評価する安達教授も、「有機ELの分野は、ゴールを100とすると、まだ20〜30くらいのところにいる。つまり、伸びしろがたくさんあるということだ」と語っている。「ビジネスチャンスは必ず日本にやってくる」という安達教授の言葉通り、日本メーカー逆転の可能性は大いにあると考えられる。
メーカー | 有機ELディスプレイ | 発売時期 |
---|---|---|
ソニー | 中型(17インチ、25インチ)業務用モニター | 2011年8月 |
パナソニック/ソニー | 大型有機ELテレビ | 2013年以降 |
Samsung Electronics | 55インチ有機ELテレビ | 2012年夏予定 |
LG Electronics | 55インチ有機ELディスプレイ | 2012年秋予定 |
ジャパンディスプレイ*5) | 中小型有機ELディスプレイ | - |
*5)ジャパンディスプレイは、ソニー、東芝、日立の中小型ディスプレイ事業を統合して、2012年4月に設立された。スマートフォンやタブレット端末向けの中小型ディスプレイの最先端技術の確立を目指す。九州大学が立ち上げた、最先端有機光エレクトロニクス研究センターのプロジェクトに参加している。
有機ELディスプレイのメリット
ここでは、輝度、薄さ、消費電力、応答速度の4つの観点で、有機ELディスプレイと液晶ディスプレイを比較する。
比較項目 | 液晶ディスプレイ | 有機ELディスプレイ |
---|---|---|
輝度/コントラスト | △ | ○ |
消費電力 | △ | ◎ |
薄さ | △ | ○ |
応答速度 | △ | ◎ |
図A 液晶ディスプレイと有機ELディスプレイの比較
輝度とコントラスト
まず、画質、つまり見え方に直接関わってくるところが輝度である。これは、素子そのものが発光する有機ELディスプレイ(自発光型)と、バックライトの力を借りる液晶ディスプレイ(受光型)では、かなりはっきりとした違いが見て取れる。
例えば、夜空に走る稲妻を表現する場合を考えてみる。有機ELディスプレイの場合、稲妻の部分を表示している有機EL素子の電流だけを高くすれば、光る感じを出すことができる。一方、液晶ディスプレイでは、稲妻の部分を表現するためにバックライトの電流を上げ(輝度を上げ)、夜空の部分、つまり暗い部分は輝度を減らして表現する。バックライト全体の輝度を上げるため、暗い部分まで白っぽくなってしまう。LEDバックライトを採用したとしても、いくぶんコントラストが悪化する。液晶ディスプレイはコントラストが弱いといわれるのは、ここに要因がある。
薄さ
薄さについては、図Bからも分かる通り、素子が発光する有機ELディスプレイではバックライトが不要になるので、その分、液晶ディスプレイよりも薄型化が可能になる。
消費電力
有機ELディスプレイはバックライトが不要なため、液晶ディスプレイに比べて大幅に消費電力を削減できる。現在の液晶テレビはLEDバックライトの搭載により低消費電力化が図れたとはいえ、バックライトそのものが不要な有機ELディスプレイに比べれば、どうしても消費電力は高くなる。
応答速度
動画を表示するテレビにおいて、応答速度も大事な要素だ。応答速度が遅いと、スポーツやアクションシーンなど、動きが速いものを表示したときに残像が現れるケースがある。応答速度については、有機ELは液晶の1000倍と言われている。応答速度の遅さは液晶という材料そのものの性質に起因するところもあるので、改善を図ろうとしても限界がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 大画面ながらも色むら無し、エプソンが有機EL用成膜技術を開発
有機ELディスプレイの普及には大型化が必要不可欠だが、大型化はなかなか進んでいない。これは、大型化に向けて乗り越えるべき課題がいくつかあったからだ。 - 有機EL=テレビではない、パナソニックの新社長が見据えるディスプレイ事業
テレビ向けの有機ELパネルを、ソニーと共同開発することを発表したばかりのパナソニック。ただし同社は、有機ELテレビは、あくまでも、より大きな市場である“ディスプレイの1つの形”としかとらえていないようだ。 - 加速するOLED市場の拡大、大型有機ELテレビの登場で
55インチの大型有機ELテレビが、2012年の夏から秋にかけて発売される。これによって、有機ELディスプレイ(OLED)の市場開拓が一気に進むと予想されている。