Amazonの「Kindle Fire HD」を分解、Apple・Google対抗の小型タブレット:製品解剖(2/3 ページ)
日本でも間もなく発売になるAmazonの新型タブレット。既に北米で販売が始まっている7インチ型のモデルを分解し、部品のベンダーやコスト構造を分析した。199ドルの売価に対し、部材コストは若干のマージンがありそうだ。ただ、同時に発表した初代機の改良版は価格が159ドルとさらに低く、マージンは見込めない。
アプリケーションプロセッサはTIのOMAP
技術的な仕様に注目すると、Kindle Fire HDはアプリケーションプロセッサに高性能な品種を採用し、改善を図っている。具体的には、Texas Instruments(TI)のデュアルコアのプロセッサ「OMAP 4460」を搭載する。Kindle Fireの初代機はTIの「OMAP 4430」を採用しており、Kindle Fire HDもそれを引き継ぐ形で高性能品を採用した。
この高性能品は、最大1.5GHzのクロック周波数で動作する。7インチモデルにOMAP 4460が搭載されていたのは興味深い発見だった。というのは、Amazonはそれまで、OMAP 4460よりも上位の品種である「OMAP 4470」を採用すると示唆していたからだ。OMAP 4470は、ARMの「Cortex-9」ベースのデュアルコアプロセッサであり、クロック周波数が最大1.8GHzと高い。実際にAmazonは、8.9インチのLTE対応モデルにはこのOMAP 4470を搭載している。7インチモデルに採用しなかったのは、コストを低減するためという可能性が高い。比較的古い品種であり、既に各種機器に広く採用されているOMAP 4460に比べると、OMAP 4470は価格が高めに設定されている。
OMAP 4460の上面には、PoP(Package on Package)技術を使ってSDRAMチップを搭載している。Low Power DDR2(LPDDR2)に対応したSamsung Electronicsの8Gビット品「K3PE7E700M」だ。これにより、Kindle Fire HDのシステムRAMは、Kindle Fireの初代機の512Mバイトから1Gバイトへと倍増し、タブレット市場の競合他社機と同等になった。なおSamsungはKindle Fire HDで他にも、コンテンツ記録用にeMMCフラッシュメモリコントローラを備える16GバイトのNANDフラッシュメモリパッケージ「KLMAG2GE4A」も供給している。
次は無線接続機能を実現する2つのチップについて見ていこう。1つ目は、GPSとBluetooth 4.0、FM送受信の機能をまとめて搭載したBroadcomの「BCM2076」である。2つ目はWi-Fiチップで、Amazonがタブレット業界で初めて採用したMIMO対応品だ。当社(UBM TechInsights)が分解した端末では、パッケージに「66023021」と刻印されたチップがボードに実装されていた。このリポートの執筆時点では、MIMO対応のWi-Fiチップを供給しているベンダーは不明だが、このパッケージを開ければ明らかになるはずだ。追って報告したい。
メインボードに搭載されたこの他の主要チップとそのベンダーは、次の通りである。オーディオコーデックICはWolfson Microelectronicsの「WM8962E」が採用されていた。6軸のジャイロスコープ/加速度センサーは、InvensenseのMEMS品「MPU-6050」である。タッチパネル制御ICは相互静電容量(mutual capacitance)方式で、Atmelの「MXT768E」が搭載されていた。このチップは、もともと自動車アプリケーション向けに開発された品種であり、それがこうしたタブレット端末に採用されたという点が興味深い。電源管理ICについては、Texas Instrumentsがデザインウィンを勝ち取っている。型番は「TWL6032」である。
新型7インチはマージン確保も、初代機の改良版は赤字の設定
Amazonの今回の発表で筆者が特に注目したのは、その価格設定だ。同社はKindle Fireの初代機を発売したとき、199米ドルという値付けでタブレット業界に価格破壊をもたらした。当時、消費者はAppleのタブレットに499米ドルを喜んで支払おうとしていたのである。タブレット各社はいずれも、Amazonのような価格で製品を作ろうとは考えていなかった。そしてAmazonは今回、Kindle Fire HDの7インチモデルを199米ドルという初代機と同じ価格で投入するとともに、初代機の改良版を159米ドルで発売し、タブレット業界に再び低価格化の波をもたらそうとしているようだ。
当社がKindle Fire HDの部材コスト(BOM:Bill-of-Materials)を分析したところ、Kindle Fireの初代機と同程度のマージンがあることが明らかになった。しかし初代機の改良版の159米ドルという販売価格は、同モデルの部材コストよりも低く設定されていると当社はみている。すなわちこのモデルについてAmazonは、端末自体の販売で赤字になっても、電子ブックのようなコンテンツやアプリの売り上げで稼ぐという戦略をとっていると考えられる。
Kindle Fire HDの主な仕様と部材コスト Amazonが今回発表したKindle Fire HDの3つのモデルの他、同社が1年前に投入したKindle Fireの初代機と、GoogleのNexus 7について、主な仕様と部材コスト(BOM)を比較のために示している。Kindle Fireの初代機と、Kindle Fire HDの7インチモデルは、ともに発売時の価格設定が199米ドルである。それぞれの部材コストは153米ドル(1年前の発売時点)、148米ドルであり、販売価格に対していずれも50米ドル程度のマージンを確保できている計算だ。なおKindle Fire HDについては、発表時点に実施した早期の分析であり、実機の分解の結果は反映していない。出典:UBM TechInsights (クリックで画像を拡大)
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