エンジニアこそ、マーケティングを学べ!:いまどきエンジニアの育て方(16)(3/3 ページ)
マーケティングの観点を持って、あらためて技術を見ると、設計思想、アーキテクチャ、設計手法、所用機能、基盤技術がガラッと変わることがあります。結果的に開発期間、開発費用に多大な影響を与えることが少なくありません。今回は、「技術マーケティング」と「コンセプトメイキング」について、お話します。
技術マーケティングを設計に生かす
技術マーケティングの考え方自体はかなり昔からありますが、筆者が知る限り、この10年くらいで徐々に広まってきた感があります。技術マーケティングがカバーする領域は非常に広範囲なので、ここでは1つだけ紹介します。図3をご覧ください。
これは、「機能・コスト分析」といって、エンジニアリングの世界ではVE(Value Engineering)として知られています。
といっても、通常、開発部門においては機能を価格で表すという習慣はほとんどありません。かなり手間がかかるということと、「機能・コスト分析」に、それほど価値を置いていないからということもあります。
「機能・コスト分析」は、一言で言えば、「いくらなら、この機能を買うか?」を示すマトリクス表です。「機能がどのようなモジュール※1)によって実現されているのか」を把握するためのものです。単一モジュールで実現できるような製品構造もあれば、複数のモジュールで実現しながら相互依存性の強い製品構造もあります。
※1)編集部注:「モジュール」の概念については、MONOistの関連記事「BtoB受注生産型製造業でのモジュール設計改革」をご参照ください。
「機能・コスト分析」は、競合他社に比べて価格・コスト競争力があるかないかを調べる時や、コスト削減を検討する時にモジュールの最適な境界線を探す場合にも有効です。「機能・コスト分析」は、製品の各機能を実現させるために必要なトータルコストを、マトリクス分析によって明確にします。新製品のアイデアを出す時や、戦略を検討する際の判断材料にも使うことができます。「機能・コスト分析」を行う時は、計算の精度を追求するのではなく、競争力の有無を把握できる程度にとどめれば十分です。
マーケティング志向と思考でアプローチをする場合、技術的なシーズ発想(技術オリエンティッド)からなかなか脱却できず、それ故、どうしても機能過剰になりがちです。それにもかかわらず肝心な機能が抜けている、性能を追求し過ぎてコスト高になってしまう、といった場合があります。自分たちが作っているモノが何を提供し、どのようなモジュール構成で、いくらで実現できているかを考えることは重要なことです。
今回は「機能・コスト分析」だけしか紹介できませんでしたが、「機能・コスト分析」だけでなく、技術マーケティング全体を開発部門で取り入れている会社がいくつもあります。若手エンジニアが開発の仕事だけでなく、製品コンセプトを一緒に考えることで、早期からマーケティングセンスを身に付けることができます。また、開発プロジェクトチームとして一体感も生まれるので、良い成果を出しているようです。
※技術マーケティングについて詳細に知りたいという方がいましたら、当社カレンコンサルティングまでお気軽にお問合せください。当社Webには掲載していません。
次回は、エンジニアのキャリアデザインについてお話します。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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