エンジニアこそ、マーケティングを学べ!:いまどきエンジニアの育て方(16)(2/3 ページ)
マーケティングの観点を持って、あらためて技術を見ると、設計思想、アーキテクチャ、設計手法、所用機能、基盤技術がガラッと変わることがあります。結果的に開発期間、開発費用に多大な影響を与えることが少なくありません。今回は、「技術マーケティング」と「コンセプトメイキング」について、お話します。
コンセプト会議では何をする?
「コンセプトメイキングを若手育成の場」として、マーケティング部の次の製品コンセプト会議に、佐々木さんと同期の加藤さんが参加します。第15回でお伝えしたように、開発部の田中課長と、マーケティング部の松田課長の計らいによって実現しました。これまで課内の打ち合わせ、ミーティングなどに参加した経験はありますが、佐々木さんも加藤さんもマーケティング部主催の大きな会議には出たことがありません。
それぞれの上司からは、「まあ、勉強だと思って参加してごらん。マーケティング部の部長の承認も取ってあるし、君たち若いエンジニアの観点で発言してくれるのは大歓迎だ」と言われています。
加藤さあ、俺たち、マーケのコンセプト会議に出ろって言われたけど、どうすればいいんだろうね?
うーん……俺も分からないよ。初めてのことだし、開発部からは部課長が参加している会議だってことくらいしか知らないから。
だよなあ。田中課長は「勉強だと思って」と言ってたけど、マーケの仕事が開発の仕事とどう関係するのかなあ?
2年目エンジニア同士が少し神妙な顔で話をしている様子が目にとまったのか、庶務の山本かれんさんが近付いてきました。
ねえねえ、何の話してるの?
ああ、実はね……(コンセプト会議に参加するように言われたことを話す)
私、いつも資料の準備を手伝ってるけど、開発の図面だらけの資料と違って、面白そうなこともたくさん入ってるわ。
面白そうなことって?
うーんとね……、「お客さんの声やニーズ」を整理したもの、「市場の成長率」って言うのかな? それと「競合の新製品情報」とか。そうそう、「技術的な課題」や「機能」、「原価などのコスト」の資料もあったかも。
へえー、そうなんだ。てっきり、マーケティングってお客さんの要望だけをまとめているところかと思ったよ。
うん、俺も。
私、技術のことはよく分からないけど、開発部門の人とマーケの人が一緒に仕事をすると、いい製品ができると思うなあ。もちろん、私はデザイン重視だから、製品はやっぱりかわいくなくっちゃね! かわいいって大事よ。
かわいい!?
コンセプトメイキングの軸を知る
ここで、「コンセプトメイキングの軸」というものを考えてみましょう。一言で、コンセプトメイキングと言っても、何を軸にするのでしょうか。マーケティングの世界を少しのぞいてみます。
図2をご覧ください。
左側は一般的なマーケティングにおける3つの軸です。消費財をイメージしてもらえば分かりやすいかと思います。例えば、化粧品であれば下記のようになります。
- Target:女性
- Benefit:きれいになる
- Scene:お出かけ前(出社、デートなど)
もっと絞り込むと、対象となる年齢層、UVケアなのかアンチエイジングなのか、かわいく見せるのか、それとも大人っぽく見せるのか、などが考えられます。かなり大ざっぱですが、マーケティングにおける初期の製品コンセプトはこのような枠組みです。
一方、技術マーケティングでは、
- Product
- Market
- Technology
の3つが製品コンセプトを考える重要な軸となります。
どのような製品(ラインアップ)【Product】を取れば良いのか。例えばハイエンドからエントリーまでフルラインアップでそろえるのか、それぞれがどのくらいの市場(マーケットサイズ)【Market】があるのか。この2つに関しては、通常のマーケティングにも当てはまります。ですが、技術マーケティングにおいては、どのような技術【Technology】を使って製品を実現するのかということも重要になってきます。
市場のニーズが見込まれ、かつ、顧客からの要望が高くても、製品として世の中に出すだけの技術を自社が保有していなければ製品化はできません。保有していない場合は、他社から技術供与を受けるか、技術を持っている会社とアライアンスを組むか、技術を持っている会社そのものを買収するかといった選択肢の中から選ばざるを得ないわけです。そして、自社の技術について最もよく知っている人は開発者、技術者自身であり、マーケティング部門の人ではないのです。もちろん、マーケティング部門の人も自社の技術レベルをおおよそは把握していますが、新製品が開発される度に技術レベルは向上するので、“今の技術レベル”がどうなっているかと問われると、お手上げになってしまうことでしょう。
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