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もうかる通信機器はFPGAでこそ実現できる、国内メーカーの海外展開に期待ザイリンクス 代表取締役社長 サム・ローガン氏

大手FPGAベンダーであるXilinxは、最先端の半導体製造プロセスを用いた製品開発に意欲的なことで知られている。同社は、TSMCの20nmプロセスを用いた次世代品を、2013年10〜12月期にサンプル供給する方針を既に明らかにしている。日本法人のザイリンクスで社長を務めるサム・ローガン氏に、通信機器におけるASIC/ASSPからFPGAへの置き換えの進展や、競合のAlteraが発表したIntelの14nmプロセス採用に対する見解などについて聞いた。

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 ザイリンクス社長のサム・ローガン氏

 半導体の進化は、常に製造プロセスの微細化によってけん引されてきた。現時点では、製造プロセスの微細化で先行するIntelが22nmプロセスを用いたCPUを量産する一方で、TSMCなどのファウンドリで生産される28nmプロセスを用いたプロセッサ製品もスマートフォンやタブレット端末に搭載されるようになっている。

 数ある半導体メーカーの中でも、大手FPGAベンダーであるXilinxは、これらの先端プロセスを用いた製品開発に意欲的なことで知られている。28nmプロセス品のサンプル供給は約2年前の2011年3月に始めており、TSMCの20nmプロセスを用いた次世代品についても、2013年10〜12月期にサンプル供給を始める方針を明らかにしている。日本法人のザイリンクスで社長を務めるサム・ローガン氏に、通信機器におけるASIC/ASSPからFPGAへの置き換えの進展や、競合のAlteraが発表したIntelの14nmプロセス採用に対する見解などについて聞いた。



EE Times Japan(EETJ) 従来からFPGAベンダーは、通信機器などに用いられているASICやASSPを、FPGAに置き換えられると主張してきました。ICの開発コストが膨れ上がる28nmプロセスになれば、書き換え可能というFPGAの利点を生かせるのみならず、ASIC/ASSPよりもコスト低減が可能になるという意見もあります。実際に、ASICやASSPからの置き換えは進んでいるのでしょうか。

ザイリンクスのサム・ローガン氏
ザイリンクスのサム・ローガン氏

ローガン氏 通信機器向けのASIC/ASSPの開発コストが高騰しているのは確かです。0.3〜0.2μmプロセスのころは数千万円程度で済んでいましたが、28nmプロセスでは8億円ほど掛かると言われています。使用するフォトマスクの枚数も、0.3〜0.2μmプロセスのときに7〜9枚だったのが、28nmプロセスでは50枚まで増えました。もちろん、FPGAも同程度の開発コストは掛かりますが、ASICやASSPとは異なり、用途が限定されていないので開発コストを吸収しやすいのです。

 開発コストの高騰によって、量産規模が限られるASICから、BroadcomやQualcommが展開している量産規模の大きなASSPや、われわれが提供する先端プロセスを用いたFPGAへの移行が進んでいます。ASSPについても、通信機器の開発が容易になるというメリットはあるのですが、FPGAと違って機能が固定されているので、ASSPに合わせて通信機器を開発することになります。このため同じASSPを使っている他社の製品との差異化が難しくなってしまい、最終的には価格の安さで勝負する必要が出てきます。つまり、ASICやASSPで通信機器を開発しても、もうからないのです。

 2013年は、米国市場でLTE対応の携帯電話通信インフラ構築が本格化します。最近の円安もあって、日本の通信機器メーカーは、米国をはじめとする海外の通信機器需要を獲得するための動きを強めています。しかし、ASICやASSPを用いた通信機器では、前述した理由によって利益が出しにくいこともあって、FPGAを採用する傾向が強まっているわけです。

28nmプロセス品でAlteraよりも先行

EETJ Xilinxは、TSMCの20nmプロセスを用いた次世代品を、2013年10〜12月期にサンプル供給することを発表しています。一方、競合であるAlteraは、Intelの14nmプロセスを採用する方針を明らかにしました(関連記事:Intel、Altera向けに14nmプロセスのFPGAを製造へ)。このAlteraの製造戦略を、どのように捉えていますか

ローガン氏 われわれは、28nmプロセス品や、シリコンインターポーザーを用いて複数のダイを組み合わせる「3D IC」、プロセッサとFPGAを融合した「Zynq」のような製品の開発については、Alteraよりも常に一歩先んじてきたと認識しています。

 Alteraが、Intelに14nmプロセス品を製造委託するという発表を行ったのは、28nmプロセスや20nmプロセスではわれわれに追いつけないと判断したからでしょう。だからこそ、われわれが既に製品開発の方向性を打ち出している20nmプロセスを飛び越して、14nmプロセスに関する発表を行ったのではないかと思います。

EETJ Intelがファウンドリ事業を本格化させていることをどう評価しますか。同社は、既に22nmプロセスで量産を行っていますし、14nmプロセスも間もなく導入する見込みです。その半導体製造技術は世界からゆるぎない評価を得ています。

ローガン氏 確かにIntelは、素晴らしい半導体製造技術を持っています。しかし、PCやサーバ向けに展開している自社CPUを製造するための技術を、顧客の求めに応じた柔軟な対応が求められるファウンドリに適用できるかどうかは、別問題です。

 Intelの製造ラインは、自社CPUの動作周波数をできる限り高められるようにチューニングされています。このため、歩留まりもあまり良くありません。不良品によって発生する製造コストの無駄をカバーするには、それを吸収するための量産規模が必要になります。私自身も、PCやサーバ向けのCPUを開発/製造していたAMDに在籍していたことがあるので、そういったことはよく理解しています。

 一方、TSMCに代表されるファウンドリは、顧客の要求する仕様に合わせて、性能と歩留まりを満足させるためのノウハウを有しています。Intelにそういったノウハウがあるのかは未知数です。少なくとも、先端プロセスの半導体製造ラインを持っていれば、ファウンドリをやれるわけではないことは確かでしょう。“半導体製造技術=ファウンドリの能力”ではないのですから。

3つの手法で顧客の要求を満たす

EETJ 次世代製品を開発する上で、先端プロセスの他に、シリコンインターポーザーを使った3D ICなどの「More than Moore」的な技術も重要性を増しています。

ローガン氏 従来、Xilinxでは、製造プロセスの進化に合わせてFPGAの製品世代を定義してきました。例えば、45/40nmプロセスであれば「Virtex-6」や「Spartan-6」といった「6シリーズ」を展開しています。

 しかし、28nmプロセスからは、微細化によって性能を高めた従来型のシングルチップのFPGA製品以外に、3D IC技術も利用できるようになり、顧客の求める製品を実現するための手法が増えました。また、従来はインタフェース用途で用いられるためプリント基板の周辺部に実装されることの多かったFPGAを、プリント基板の中央部でも利用できるように、アプリケーションプロセッサと1チップに集積してSoC(System on Chip)的な製品に仕上げたZynqもあります。

 今後は、微細化、3D IC、SoCという3つの手法を活用して、顧客の要求する性能やコストを満たす製品を提供していきます。遠くない未来には、「〜nm世代FPGA」といったように、製品の製造プロセスを意識しなくて済むようになるかもしれません。

28nmプロセス以降は3つの手法を活用して製品を展開する
28nmプロセス以降は、FPGAの微細化、3D IC、SoCという3つの手法を活用して製品を展開する(クリックで拡大) 出典:ザイリンクス

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