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「英語」に嫌われても「人」に愛されればよい 〜海外赴任を乗り切る秘訣〜「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(20)(1/4 ページ)

さて、本連載も佳境にさしかかりました。今回は、ついに海外赴任へと旅立ちます。海外出張と決定的に異なるのは、生活するための基盤を自分で立ち上げなくてはいけないこと。銀行口座の開設に始まり、アパートを契約したり、電話、水道、ガス、インターネットを引いたりするための交渉を続けるうちに、私が学校で学んだ英語は大きく崩壊していきました。実践編(海外赴任)となる今回は、私が赴任を通して学んだ秘訣を紹介します。

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 われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論連載一覧

 米国の有名なコンピュータ関連企業と私の勤務している会社が、新しいネットワーク管理ソフトウェアの開発を行うため、私たち家族が米国コロラド州に赴任することになった時のことです。

 それを聞いた父と母は、「何月何日に日本を発つのだ?」と、何度も尋ねてきました。

 「なんでそんなこと知りたいの?」と尋ねてみたら、

――成田空港に「見送り」に行かなればならないだろうが

と言われて、腰が抜けるほどビックリしてしまいました。

 「お願いだから、来ないでね」と、相当何度も言い含めて思いとどまらせたのですが、あの両親は、「祝 江端智一君! 米国赴任おめでとう!」と書かれた横断幕を抱え、親戚一同を引き連れて成田空港に乗りこんできていたかもしれない、と思うと、今でも血の気が引く思いです。

 太平洋戦争前に生まれ、青春時代を戦火の中で過ごした私の両親にとって、「息子の米国赴任」というのは、それはもう「エリート オブ エリートズ」、会社の若手幹部候補生、社長の椅子ロックオン――のように思えたのかもしれません。

 実際、戦後の高度成長期において、アメリカ合衆国とは富の象徴であり、文化や技術において日本人の目指すべきまばゆい指標であったことは事実です。英語新聞を読んでいる人は別世界の人間で、英語がしゃべれることは、永遠の安定と栄光を保証された(という誤解と錯覚が存在した)時代があったのです。

 今でも、日本人のその古い思い込みは色濃く残っています。例えば、いわゆるトレンディドラマにおいて、才能はあるのに優しさ故にうだつの上がらない男が、最後に仕事で成功して、ニューヨークの五番街で彼女と一緒にショッピングをしているところでエンディングを迎える――という陳腐な設定は、今なお健在です。

 しかし、時代は変わりました。

 海外赴任は、もはや特別なイベントではありません。私のような「英語に愛されないエンジニア」まで現地に送り込まなければならないほどに、――誰もグローバル化なんか望んでいないのに*1)――我が国の企業は、海外市場に生き残りを見いだすしかないのです。

*1)「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(18):誰も望んでいない“グローバル化”、それでもエンジニアが海外に送り込まれる理由とは?

 ともあれ、私の父や母が、自分の息子のことを真逆の方向に誤解していたとしても、「まあ、いいかな」と思っています。

 「バーチャルアイドル 初音ミク」*2)よりも、さらに斜め上を行く「バーチャルエンジニア 江端智一」の存在が両親を喜ばせているのであれば、それをわざわざ訂正する必要もなかろうと、そのまま放置して現在に至っています。

*2)初音ミクを生んだ“革命的”技術を徹底解剖!ミクミクダンス、音声、作曲…

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