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百戦錬磨のエンジニアが教える、「開発コストを減らす4つのコツ」(後編)いまどきエンジニアの育て方 ―番外編―(1/2 ページ)

では、実際に開発コストを減らすために、A氏はどのような取り組みを行ったのだろうか。「普通のことを普通に実行すればいい」が口癖のA氏だが、現場のエンジニアの仕事の範囲を飛び越えたものであった。

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前編はこちらから

 X社のAさんが率いるチームが開発に取り組んでいた製品は、産業市場向けの機器である。ビジネスモデル的にはB to B市場で、市場そのものの規模はさほど大きくはなく、著しい成長も望めないといわれている。すなわち、成熟市場である。

 同市場で、X社は30年以上前から製品を投入し、確固たる地位を築いてきた。大手の競合メーカーが国内に数社存在する他、最近はアジアのメーカーも複数参入している。X社の製品も製品ライフサイクル(PLC:Product Life Cycle)では成熟期に差し掛かっていた。成熟市場で成熟製品となると、行く末は価格競争にならざるを得ない。特にアジアメーカーの参入が、価格競争ならぬ価格破壊の要因になりがちなことは、ここ数年の液晶テレビの国内メーカーの衰退をみれば明らかであろう。

 ただし、Aさんは、「コンシューマ向け製品よりも、当社の産業向け製品は価格や原価が厳しくない。さらに、医療機器のように特定の規格などにしばられることもなく、要求される仕様も自由度が高い」と語る。一方で、「顧客も製品も多様化している割に市場は頭打ちであり、製品の販売数量も伸び悩んでいて、価格は下落傾向にある。そのため、利益を圧迫しているので、開発コストを意識することが重要になる」と述べる。

 ここでAさんが言う“コスト”とは、原価(材料費+加工費)と一般管理費(社員にかかる固定費用)だ。一般管理費は、現場レベルではコントロールできないので、コストを下げるには原価の改善が急務になる。

 では、Aさんはどのようにして開発コストを削減したのだろうか。

Point 1:“まとめ買い”で材料費を下げる――自らサプライヤと直談判

 材料費を下げるための最も簡単な方法は、“まとめ買い”だ。しかし、X社の製品はコンシューマ向けではなく産業用で、大量に売れる製品ではない。Aさんをはじめ、開発エンジニアは、製品のキーデバイスに、コンシューマ向け製品で大量に使われる部品を採用しようとした。だが、サプライヤやその代理店は、数量を見込めないことから、ことごとくX社の購買部門からの交渉を断ったのである。

 しかし、ここでおとなしく引っ込むAさんではない。なんと自らサプライヤに乗り込み、直談判を始めたのだ。普通はこの類の仕事は購買部門に一任するだろうし、まさかサプライヤもエンジニアが(しかも開発部長クラスが)前面に出てくるとは思っていなかったようだ。

 Aさんは何度となくサプライヤに足を運び、頭を下げながら根気よく頼み込んだ。最終的にはサプライヤが折れて、製品の心臓部となるキーデバイスを安く購入できることになった。


画像はイメージです

 ただし、Aさんは単に頼み込んだわけではない。三顧の礼で部品を安くできるほど、サプライヤ側も甘くはないだろう。Aさんは、担当する製品のラインアップのアーキテクチャを分析し、プラットホームを統一することで部品数量をまとめ、交渉が成立したサプライヤの部品を、新規開発製品群に使うことを宣言したのだ。Aさんは、このサプライヤが扱う部品の性能を上回るものが、他のサプライヤからは供給されないと判断した。キーデバイスとして選定された部品は、そのくらい最新の技術を適用して作られ、同業他社が同じレベルまで追い付くには数年以上かかるとAさんは予測したのだ。

 こうして、Aさんは最新かつ最高性能のキーデバイスを安価に大量に仕入れることができた。これにより、材料費を大きく下げられる見通しが立った。

 購買部門には後にきちんとAさんから業務のバトンを渡しているが、エンジニアがここまで交渉してくるのは前代未聞だったようだ。

 材料費は、いかに全社で汎用的な部品を選択し、数量をまとめられるかが鍵となるのである。

Point 2:“設計力”で加工費を下げる――ワンチップ宣言!

 前世代品は、CPUをはじめ、画像処理を行うASIC、さまざまなセンサーと制御回路、さらにモーターの駆動系の制御回路も搭載していた。結果的に、デジタル周りだけでも回路規模は大きくなり、ASICの開発コストも馬鹿にならなかった。

 そこでAさんが注目したのが、ワンチップのCPUである。最近のCPUの性能向上は著しく、消費電力も少ない。製品はフィールドユースも視野に入れているので、消費電力は少ないほうが望ましい。これまで、動作が重いものは専用のASICに処理を任せていたが、CPUの性能が上がっていることから、ASICで行っていた処理を全てソフトウェアで組み、CPUにやらせることにした。周辺の制御回路なども組み込み、ワンチップのCPUで動作するように、既存の組み込みソフトウェアを、ワンチップCPU用に全て書き換えた。

 さらに、データのキャリブレーション(校正)も全て自動で行うよう変更し、これまで検査部門で製品の性能出しなどの調整にかかっていた時間を大幅に削減した。ワンチップなので、配線工数も不要だ。

 こうして、「設計力」によって加工費を大幅に削減した。

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