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百戦錬磨のエンジニアが教える、「開発コストを減らす4つのコツ」(後編)いまどきエンジニアの育て方 ―番外編―(2/2 ページ)

では、実際に開発コストを減らすために、A氏はどのような取り組みを行ったのだろうか。「普通のことを普通に実行すればいい」が口癖のA氏だが、現場のエンジニアの仕事の範囲を飛び越えたものであった。

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Point 3:“その機能は、いくらなのか?”を徹底的に考える

 Aさんは、Point 1で述べたように、自らがサプライヤに赴くことでキーデバイスを低価格で購入することに成功した。しかし、単純に部品の単価を下げるには限界がある。そこでAさんは、新製品に搭載する機能のうち、何が必要で何が不要なのかを徹底的に調べ上げていった。

 具体的には、「機能・コスト分析*1)」を行った。VE(Value Engineering)の応用で、「いくらなら、この機能を買うか?」を示すマトリクス表だ。これによって、機能が、どのようなモジュール*2)によって実現されているのかを把握できる。

*1)「機能・コスト分析」の詳細は、「いまどきエンジニアの育て方」の「市場のニーズを知れば、設計の意義が見えてくる」、「エンジニアこそ、マーケティングを学べ!」をご覧ください。

*2)「モジュール」の概念については、MONOistの関連記事「BtoB受注生産型製造業でのモジュール設計改革」をご参照ください。


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 Aさんは、機能を削ることで、どの部品やモジュールに設計の影響が出るのかを徹底的に分析した。そして、本当に必要な機能にはとことんコストをかけることにした。“必要な機能”も、技術屋の独りよがり(技術オリエンティッドのシーズ発想)にならないように、注意を払った。そして、「で、その機能、いくらなの?」と、開発チームのメンバーに繰り返し問いかけたのである。

 技術屋、エンジニアと呼ばれる人種は、自分自身で納得するプロセスを経ないと先に進まないし進めない。したがって、頭ごなしに「コストを下げろ」と言っても、「はい、分かりました」とはならない。機能・コスト分析のように、数字で検証し、示すことで、エンジニア自身を納得させることが重要になるのである。

Point4:ビジョンとコンセプトを共有する


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 開発費や開発期間を下げるためには、技術以外に、「やる気」「熱意」といった、エンジニアの精神も重要になる。「そんな精神論を持ち込まれても……」と思う方もいるかもしれないが、やはり人間なので、気の持ちようで仕事の質なり量なりが左右されることは確かなのである。

 Aさんは、現場のエンジニアをまとめるために、ビジョンとコンセプトを掲げ、チームで共有した。

 Aさんが掲げたビジョンは、「世の中にないものを作る」だ。

 シンプルな文言だが、Aさんはこのビジョンを作るに際して、関係者全員を巻き込んで徹底的に議論をしながら決めた。上が決めたビジョンを現場に落とすのではなく、現場でビジョンを作ってしまったのである。エンジニアみんなで考えたビジョンなので、愛着もわく。

 さらに、Aさんはエンジニア一人ひとりの思いを、より具体的に製品コンセプトに落とし込んだ。この段階では、エンジニアだけでなく、企画、マーケティング、製造など、関係するあらゆる部門ととことんディスカッションを行った。部門の壁を超え、上司・部下の枠も超えて、若いエンジニアの意見も積極的に聞いた。こうして、みんなの思いがこもった製品コンセプトとして、まとめ上げたのである*3)

 重要なのは、ビジョンがシンプルであっても、そこに至るまでの過程にエンジニア自身も参加しているので、仕様書には書かれていない、“製品の真のコンセプト”をきっちりと把握できているということだ。つまり、「自分たちは何を作ればいいのか」を、深く理解していることになる。

*3)X社のAさんが行った製品コンセプトについては、「いまどきエンジニアの育て方(12):コンセプトメイキングを若手育成の場に、“魂が宿るモノづくり”を目指す」で述べているので参照されたい。

「エンジニア自らが“気づく”ことで、彼らの目の色は変わる」

 開発のモチベーションを落とさずに、最高のパフォーマンスを出すためには、「チームづくりと人づくりを欠かしてはならない」――。Aさんは、このように語っている。

 Aさんは部門の枠にとらわれず、特に、若手を積極的に参画させて“当事者意識”を持たせることに注力した。Aさんは、「あの人のためなら、何が何でもやってやる!」くらいの気概を、現場のエンジニアに持ってもらえると嬉しいと語る。

 ビジョンやコンセプトをともに作り、機能・コスト分析を通して本当に必要な機能を、エンジニア自らに気づかせる。これによって、エンジニア全員の目の色が驚くほど変わったという。

 こうして、従来の半分の開発費と開発期間で出来上がった後継機種だが、競合製品の価格よりも数倍高価なのにもかかわらず、顧客から指名買いが後を絶たないという。利益率が大きく、同製品が飛ぶように売れていることで、X社の売り上げに貢献している。デザインも素晴らしく、2012年にグッドデザイン賞を受賞しているほどだ。

 X社内でも、他の部門から「どんなマジックを使って、開発費と開発期間を半減させたのか」という問い合わせがあるという。


X社で登場する開発ビジョンや製品コンセプト作り、VEに関して詳しく知りたい方は、株式会社カレンコンサルティングまでお問合せください。


Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年4月から2013年5月までEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』のコラムを連載。


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