AI活用の本命はビッグデータなのか?:“AI”はどこへ行った?(4)(3/3 ページ)
人工知能(AI)は、登場初期の黄金期と、1980年代前半のブームを除き、長く「冬の時代」が続いてきた。だがここに来て、ようやくAIが本領を発揮できそうな分野が登場している。それが、クラウドやソーシャルメディア、スマートフォンなどのモバイル端末の普及により、にわかに注目を集めるようになったビッグデータだ。
AIがもたらす恩恵とは
「AIがもたらす恩恵」――。こう書くと何やら難しそうだが、例えばハード的にAIを搭載した家電製品、お掃除ロボットやエアコンをイメージしてみるといい。ユーザーは、家電にAIが搭載されていることをまったく意識しないはずだ。少し賢くなった情報家電と思ったり、ちょっとした段差を乗り越えられないお掃除ロボットを見ていて楽しいと感じたり、「よくできました」とほめてあげたりしたい時もあるだろう。ただ、これら家電機器にAIが搭載されていなくとも、日常生活上、なんら不自由しない人も多いはずだ。
一方で、PCやスマートフォンなどの端末の扱いがあまり得意ではない高齢者や、障害を持った人たちは、例えば、音声認識技術によって、「誰々にかけて」と端末に言うだけで電話がかかったり、テレビのチャンネルやエアコンの設定温度を変えたりできるようになるのは、非常に便利だろう。最近、自動車分野では自動運転の研究が進んでいる。自動車メーカーだけでなくGoogleも自動運転車を開発しているのはご存じだと思う。行き先を告げるだけで目的地に到着してくれる自動運転車の登場は、高齢者の他、病気やけがなどで運転しにくい人たち、視覚障害を持つ人たちに対しても新たな移動手段をもたらすものだ。
安全性の確保、法整備など課題は山積みではあるが、こういう世の中に役立つ恩恵は大歓迎である。一方で、ハンドルを握る楽しみがなくなるな、とか、初めから全てを機械任せにしてしまって大丈夫かな、とか、そんな心配もある。実用化にはもう少し時間がかかるかもしれないが、いずれにしても楽しみなのは変わらない。
AIの活用、鍵はビッグデータ
自動車の自動運転は、国土交通省が「ITS(高度道路交通システム)」を推進していることもあって、開発が進んでいる。今年の10月に開催された「第20回ITS世界会議東京2013」においても、自動運転技術は注目の的であった。長年、自動運転車の研究開発を行ってきたトヨタ自動車・日産自動車・ホンダの3社は、今、この分野にGoogleをはじめとする米国IT企業が進出していることをどう見ているのか、気になるところである。その答えは自動運転技術だけではなく、交通情報などビッグデータの活用であると考えれば、合点がいくだろう。
このように、AIは、ロボットの知能は3歳児止まりでも、ビッグデータに代表される圧倒的に膨大なデータを処理することで、結果として“知的な処理を行う”ように変貌してきた。AIが登場した50年以上前の黄金期や、筆者世代が経験した25年前のブーム期を除き、長く「AIの冬」が続いていた中で見えた光明は、ビッグデータだったわけである。
さて、ビッグデータの登場によって、新しいAIの活用と研究開発の場が盛り上がり、いくつか実用化されてきたが、果たして、「AIが人間と同等の思考をすること」は可能なのだろうか。
脳の研究、メカニズム解明として、「ニューラル・ネットワーク」などの研究は何十年も前から行われてきた。しかし、この分野もIT企業の進出が著しい。
次回は、人間の脳の研究とAI、そこから生まれてきた新しいAIの手法「ディープ・ラーニング(Deep Learning)」を取り上げる予定だ。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年4月から2013年5月までEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』のコラムを連載。
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