“Japanese English”という発想(前編):「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論 ―番外編―(4/4 ページ)
「自分は英語が話せない」――。皆さんがそう思うときは、多かれ少なかれ米国英語/英国英語を思い浮かべているはずです。ですが、「英語」とは米国英語/英国英語だけではありません。英語は、世界中の国の数だけあるのです。もちろん日本にもあって、それは“Japanese English(日本英語)”に他なりません。そして、このJapanese Englishは、英米の2カ国を除けば概ね通じるものなのです。
“ドメスティックイングリッシュ”
ここで考えてみたいと思います。
「デタラメな文法」「メチャクチャな発音」と言うのは、そこに「正しい文法」「正しい発音」という基準があるからです。では一体、何を基準としているのでしょうか。
現在、日本国が考えている英語の基準は、米国英語と英国英語です。私たちは、この2つの国の言語形態に合わせるべく教育を施され ―― 繰り返しますが ――、少なくとも「会話」に関しては、間違いなく、ことごとく失敗に終わっています。
少し視点を変えて考察してみましょう。
日本には、さまざまな方言があります。その数については、5とも18とも、または数百あるとも言われていますが、これを定義し、数を確定することは、無理であり無意味でしょう。
しかし、それらの方言は各地域において独自の言語体系として成り立ち、その地域の文化を未来に運ぶ手段であるばかりでなく、「文化そのもの」であるといっても過言ではありません。
仮に、方言の使用を禁止し、標準語なるものに制定しようとする力(法律とか制度とか、ファシズムとかで)を発動したとすれば、それは文化の多様性を否定し、世界を魅力のないものとするでしょう。
私たち日本人は、勘違いしているのです。
“世の中には「唯一無二の英語」がある”と。
私の嫁さんは、先程述べた20カ国に上る出身地のESLの生徒たちと、ほぼ完璧に近いレベルで、日常生活上での意志疎通に成功していました。信じられないかもしれませんが、彼らは、彼ら独自の言葉を用いて、インターナショナルなコミュニケーションに成功しているのです。
この共通の言語とは、「英語」ではありません。
私は、これらの言語を、ドメスティックイングリッシュ(国産英語)、あるいはローカルイングリシュ(地域英語)と呼んで、現在に至っております。
日本における、このドメスティックイングリシュとは、まさしく、
に、他なりません。
英語は、もはや英国や米国の言語という意味で使用する必要はありません。
英語とは、世界中の国の数だけあるのです。ある言語がある土地に定着して、変化せず何百年も存続することはあり得ません。そんな言語、はっきり言って気持ち悪いです。
我が国における英語教育は、文部科学省の指導下にありますが、それはそれでよいのです。文部科学省は、英国・米国英語ではなく、「日本英語」を教える指導に転換すれば、それで十分なのです。
では、次回の後編では、この「日本英語」とは何かについて、詳細に説明したいと思います。
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Profile
江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
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