ワールドカップ開催迫るブラジルの通信インフラ事情:整備が間に合わないかも?(5/5 ページ)
「2014 FIFAワールドカップ」の開催まであと1カ月を切った。試合の様子などの情報を提供するのは報道機関だけではない。数百万人もの観客がSNSを使ってリアルタイムに動画や画像、コメントなどを現地から発信するだろう。ブラジルはネットワーク環境の構築を急ピッチで進めているが、問題も多いようだ。
通信事業者各社は、小型基地局を設置する以外にも、4G対応トラッカーを備えたホットスポットを設置したり、中継塔を増設したりすることも可能だ。ただし、中継塔を増設するには、たとえそれが暫定的なものだとしても、先行投資や多大な時間が必要となる。
Freescale Semiconductorの小型基地局向けプロダクトマーケティング部門でディレクタを務めるJeff Steinheider氏は、「通信事業者各社は、ネットワークプランの変更の他、暫定基地局で電波の送受信を行えるようにアンテナの方向を変えたり、調整したりしなければならない。エリア内の干渉を最小限に抑えて、カバレッジを増やす工夫も必要だ」と指摘する。
中継塔を増設したとしても解決できない問題もある。
米国のベンチャーキャピタルであるJB Plusのパートナーで、1年の半分をブラジルで過ごすというHenry Woo氏は、「ブラジルでは4Gを展開するためのブロードバンドインフラが十分に整っていない。光ファイバー通信網の中継回線の整備にも多大な時間とコストがかかる。4Gは無線通信だが、4G通信の実現にはそれに対応できる有線環境が必要だ」と指摘している。
ブラジルの通信事業者であるVivoはこれに備えて、ネットワークの増速に向けて短距離通信網を獲得するために、イスラエルの無線バックホールプロバイダであるCeragon Networksとパートナー契約を結んだ。またANATELは、ブラジルの通信事業者であるOiとTIMが中継塔や通信設備、放送局を共有する契約を承認している。
Steinheider氏は、「これによって一部のエリアでは光ファイバー網が整備されるだろう。ただし、特に大都市圏での整備には多額のコストがかかる。基地局から光ファイバーポイントまでのバックホールを完成させるために、一部のエリアにマイクロ波中継装置を使うことも可能だ」と述べている。
中南米地域に特化した市場調査を手掛けるIDC Latin Americaによると、2014年のブラジルのGDPのうち、ITとテレコミュニケーションの占める割合は2.6%に上る見通しだという。ブラジルでは、2014年末に4G契約者は300万人に達すると予想されている。3G契約者数は2013年に75%増加した。こうしたことから、今後は700MHz帯の利用が拡大すると予想される。当面の目標は十分な回線容量の確保に向け大型チャンネルを獲得することだが、4G AmericasのCalaff氏はさらに先に目を向けている。
同氏は、「LTEからLTE-Advanced、VoLTE(Voice Over LTE)への移行が進み、これらの通信方式がより多くの場所で使えるようになれば、ブロードバンドネットワークを活用した多彩な携帯電話機能が利用できるようになる。4G通信では、2Gや3Gでは実現が困難だったe-visit(電子受診)のようなヘルスケア関連のサービスも可能になる」と述べている。同氏は、「ワールドカップの開催に際しては、通信事情に特に問題は生じないだろう。問題は、2016年のオリンピック開催に向けて4G LTEのカバレッジをいかに拡大できるかだ」と指摘する。
ブラジルではLTE-Advancedに対応した高性能携帯電話機の開発や輸入が難しく、多くのブラジル人は今後も、2G/3G対応の携帯電話機を使い続けると予想される。米通商代表部の文書によれば、ブラジルは携帯電話機や通信機器といった特定の製品に極端に高い輸入税を課している。ブラジルの関税は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの4カ国で構成する関税同盟「Mercosur」の他の国と比べると大幅に高い場合が多い。
Calaff氏は、「各国で高周波部品にかかるBOM(部品コスト)をほぼ一定にそろえて、複数の市場に提供できるようにするなど、“調和を取る”ことが、中南米地域の経済をより持続可能なものにするだろう」と説明する。同氏は、「チリは2014年2月に、700MHz帯の周波数オークションを完了した。4G通信の普及が期待される次の大規模な市場は、ブラジルとコロンビアだ。メキシコは、中国から資金提供を受けて700MHz帯のネットワークの開発・販売を行う計画だといわれている」と付け加えた。
同氏は、「どの世代の技術であれ、初期導入には多大なコストがかかる。新しい技術を普及させるには、規模の経済が必要だ。だが、米国とは異なり、規模の経済に必要な顧客を確保できる企業はないに等しい。結局のところ、中南米地域は足並みをそろえて700MHz帯の普及を進めていくほかない。だが、それによって国境を越えたローミングが可能になるだろう」と指摘している。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
関連キーワード
通信 | ブラジル | 基地局 | 通信事業者 | LTE(Long Term Evolution) | ネットワーク | 無線 | ワールドカップ/世界大会 | インフラストラクチャ | 携帯電話 | サッカー | 南米 | LTE Advanced | FIFA | 無線LAN | ブロードバンド | VoLTE | 4G LTE | フリースケール・セミコンダクタ | 電波 | SNS
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スマートメーター用無線「IEEE 802.15.4g」が正式発効、業界団体も活動をスタート
スマートメーター用無線の国際標準規格「IEEE 802.15.4g」が正式に発効した。同規格の普及を目指した業界団体「Wi-SUN Alliance」も活動を始めている。 - Qualcommが5GHz帯を利用するLTE-Advanced技術を開発へ――Wi-Fiとの競合も
Qualcommは、5GHz帯を使用するLTE-Advancedに対応するための技術を開発したと発表した。免許不要の5GHz帯の使用は、Wi-Fiとの競合も予想される。 - ドコモが目指す“5G”の世界、通信容量はLTEの1400倍に?
NTTドコモは、LTEやLTE-Advancedの次世代規格となる5G(第5世代)の通信容量についてシミュレーションを行った。それによると、5Gは現行のLTEに比べて1400倍以上の通信容量を実現できる可能性があるという。