富士通とパナソニックのシステムLSI事業統合に関する“6つの疑問”:Intelとパナソニックの14nmプロセス製造契約の行方は?(2/2 ページ)
富士通とパナソニックは、2014年内に両社のシステムLSI事業を統合して新会社を設立する。ただ、この新会社は、どのようなシステムLSIをどのように製造し、どうやって利益を上げていくか、あまり明らかにされていない。そこで両社に“6つの疑問”を投げかけた。
質問3:新会社はどのような種類のシステムLSIを開発する予定か?
富士通とパナソニックによると、新会社は映像/イメージングとネットワークのソリューションに焦点を合わせたシステムLSIを開発する予定だという。
より具体的には、両社は2014年4月23日に共同で発表したプレスリリースの中で「重点分野」を挙げた。その分野とは、映像/イメージング分野、ネットワーク分野に加えて、まず「光ネットワークやクラウドコンピューティング、ビッグデータといった先端テクノロジー分野」、「医療分野」「エネルギー分野」である。
だが、親会社となるパナソニックがデジタルテレビやモバイル機器といった伝統的な家電エレクトロニクス事業を縮小していることを踏まえると、デジタル家電用SoCが新会社のアジェンダにどれくらい含まれるかは分からない。
質問4:新会社は車載用SoCの開発も計画しているか?
富士通の広報担当者は、自動車のダッシュボードやディスプレイ向けのシステムLSIが間違いなく計画に含まれていることを明らかにした上で、「富士通セミコンダクターには強力な車載用ASSP事業がある」と述べた。
一方で、パナソニックは、車載関連デバイス事業を新会社に譲渡しない。
パナソニック広報担当者によると、パナソニックの社内カンパニーであるオートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社に所属する車載用デバイスの設計者らを新会社に移管することはないという。車載用イメージセンサー、車載用LED、パワー半導体といった車載関連デバイス事業はパナソニック内部にとどまる。
パナソニックのシステムLSI事業部門のほとんどは新会社に移管される。同部門は民生機器向けSoCの開発を専門に手掛けてきた。同事業売上高のうちテレビ向けが40%、Blu-ray向けが25%、モバイル機器向けとチューナーICがそれぞれ10%を占めるとみられる。
質問5:新しいシステムLSI会社の収益源は何か?
新会社は2014年7月31日発表のプレスリリースで、「映像・イメージング分野およびネットワーク分野のグローバルトップクラスの技術・人材・知的財産・顧客基盤等の経営資源を利益の出る形で集約する」とした。また、グローバルで成長を実現して、「数年後には新規株式公開(IPO)を目指す」とした。
よいニュースは、新会社の最高経営責任者(CEO)に就任予定の西口泰夫氏が、富士通とパナソニックの出身ではないことだ。西口氏は京セラの元CEOで、「物議を醸す存在」として有名な未公開株式投資会社Carlyle Groupの重役として同社の経営に携わっていた。西口氏のCarlyle Groupでの責務は日本における買収の案件を見定めることだった。
2013年度の富士通セミコンダクターとパナソニックの決算の単純合算だが、新会社の年間売上高は約1500億円になると見込まれている。
新会社は自社の製造施設を所有しない。だが、ファブレスという事業形態は決して収益を保証しない。ファブレスでは、富士通とパナソニックの既存顧客を超える幅広いデザインウィンも確保できない。
世界中の多くのチップベンダーが、成長を続ける車載分野に尽力する中、日本の半導体企業同士の統合で生まれる新会社の車載用半導体事業が必ずしも利益を得られるとは限らない。
結局は、パナソニックは新会社とは離れた形で独自に車載用デバイス事業を遂行している。一部の報道によると、2年以上前に今回の新会社設立のアイデアが提案された際、富士通はルネサスも新会社に取り込みたかったようだ(関連記事:テレビは「白モノ家電の1つ」――プラズマ撤退で津賀社長)。最終的にはルネサスは単独での経営再建を決め、世界車載用半導体市場におけるトップの座を維持しようとしている。
質問6:富士通セミコンダクターとパナソニックに残る半導体事業はあるのか。もしあれば、どの事業か?
富士通セミコンダクターに残るのは、主にFRAM(強誘電体メモリ)と独自メモリ「FCRAM」(Fast Cycle RAM)に注力するシステムメモリ事業になるだろう。
富士通によると、FRAMは、EEPROMのような不揮発性メモリの利点を持ち、データ保持のために電力を消費することなく書き込みデータを維持する。また、SRAMの高速の書き込み性能も備えている。富士通はFARMを1999年から出荷しており、シリアルインタフェース(I2C、SPI)品とパラレルインタフェース品という2つの製品シリーズを提供している。
FCRAMは低消費電力のランダムアクセスメモリだ。製品シリーズには、低消費電力のDDR SDRAMインタフェース品とPSRAM(pseudo SPRAM)インタフェース品がある。FCRAMは低消費電力と高速データ転送という2つの性能を備えている。そのため、富士通は長年、FCRAMが大規模なデジタルデータを高速で処理する必要がある機器(デジタルテレビやビデオカメラ)や携帯電話機などのモバイル端末用途に最適であると主張してきた。
ただ、システムレベルのSoCは今後、システムLSI統合新会社で設計されるようになることや、富士通のマイコン/アナログ事業はSpansion(スパンション)に売却済み(2013年8月譲渡)であることから、富士通セミコンダクターが主に焦点を置くのは、混載メモリではなくメモリ単体ビジネスになるという。
一方、パナソニックの半導体事業は車載向けと産業機器向け半導体程度になる。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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