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電力という不思議なインフラ(後編)〜原発を捨てられない理由〜世界を「数字」で回してみよう(7)(3/4 ページ)

多額の負債を抱えている東京電力。「返済はやめた」とは言えませんが、「原発やめる」とも言えないのは、なぜなのでしょうか。そこには、東京電力だけでなく、政府や金融機関、「原子力損害賠償支援機構」なるものの事情が複雑に絡み合っているという背景がありました。これらを、かの有名な「あしたのジョー」にたとえて説明してみます。

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「原発やーめた」と言えないのはなぜか

 まず、前提を簡単に整理しておきましょう。

(1)原発を作ってしまった以上、いつかは必ず廃炉にしなければならない

 原発は、放置して、そのまま朽ち果てるのを待つ、ということができないのです。危険な放射性物質を完璧に除去しなければならないからです。この廃炉期間は30年間から90年間まで、各種の説があります。

 つまり、原発は死んでから(お金を稼げなくなってから)も、相当手厚い葬儀を、長期間(生きていた期間とトントンか、それよりも長く)続けないと、「たたって出てくる」というわけです。

 さて、その葬儀……もとい、廃炉の費用の捻出方法ですが、ざっくり以下の通りです。

(2)廃炉の総費用をあらかじめ見積もっておく

(3)原発一生分の想定総発電量(40年分)もあらかじめ想定しておく:想定総発電量=発電出力(例えば、100万キロワット)×40年×365日×24時間×設備利用率(原発は、定期検査で2カ月〜1年以上停止する(出典:原子力施設運転管理年報 24年度版 p70〜)。計算では76%としているが、実際はもっと低い)

(4)毎年の「廃炉積立て金(引当額)」は、原発のこれまでの実績(発電量)で決まる:N年目の積立金=廃炉の総費用(上記(2))×(初年度からN年目までの発電総量/原発一生分の想定総発電量(上記(3))−(N−1)年目までの積立金の合計

 上記(4)の内容が分かりにくいかもしれませんので、福島第一原発1号機の発電実績データを利用して、さくっとグラフを書いてみました(廃炉費用を500億円(適当)、生涯発電量は5000万キロワット時(適当))としてみました(シミュレーション結果は、私のHPのエクセルファイルをご覧下さい)。

 つまり、廃炉費用を捻出するためには、原発がその一生を全うした後に、大往生することが前提であり、その途中に事故でお亡くなりになることなど、これっぽっちも考慮されていなかったということです。

 「こんなにも楽観的に運用が想定されていたのか」「これが、あの『安全神話』というやつか」と、ちょっと感に入っています。

 現在は日本中の原発が停止しているので、廃炉の積立金は1円も増えていない状態が続いています。

 そして、今、日本中の原発を全部止めてしまうと、―― 以下のようなことが起きます。

電力会社 積立が完了していない廃炉費用(億円)
北海道 828
東北 1,524
東京 4,076
中部 1,441
北陸 958
関西 1,450
中国 287
四国 411
九州 1,036
日本原電 414
合計 12,425
参考資料:「原子力発電所の廃止措置を巡る 会計制度の課題と論点」 平成25年6月 資源エネルギー庁資料

 積立費用を回収できないことで、日本全国で1兆200億円強の資金不足が発生し、廃炉を実施することができません。

 つまり、「廃炉をすると、廃炉ができなくなる」という、訳の分からん状態に陥るのです。

 さらに、自己資産を売り払っても借金を返しきれない「債務超過」に陥る電力会社も出てくるようです(参考記事)。

 まとめますと、

問:「どうして電力会社は、原子力発電を捨てて逃げ出さないのか?」
答:「原子力発電は、一度始めてしまうと、逃げ出せない仕組みになっているから」

ということになるようです。


 では、前半と後半を通して内容をまとめてみたいと思います。

  1. 家庭用ソーラーパネルによる発電だけで、自宅の電力の全てを賄なうことはできない
  2. 従来の需要者の「わがまま」をベースに発展してきた電力システムは、需要者の「気遣い」で、電力の需給バランスを一致させる「デマンドレスポンス」に移行することで、ピーク電力などの問題を回避できるようになるかもしれない。 ―― しかし、やってみなければ分からない
  3. 「どうして電力会社は、原発を捨てて逃げ出さないのか?」という質問に対しては、「電力会社は、原発を始めた時点でその退路が断たれていたから」が答となるようである

 では、以上を持ちまして、電力シリーズを終了させていただきます。実はまだ電力ネタで書きたいことがいくつかあったのですが、これは、別の機会にお話させていただきたいと思っております。

 10月からのテーマは未定です。読者の皆さまの中に、「ぜひ『これ』を数字で回してくれ」というご要望がありましたら、私またはEE Times Japan編集部までご連絡ください。

※本記事へのコメントは、江端氏HP上の専用コーナー(今回はこちら)へお寄せください。

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