ADI技術フェローに聞く高精度A-Dコンバータ技術トレンド――「ノイズ密度」と「電力密度」を注視せよ:INL、DNLでコンバータを評価するな(2/2 ページ)
アナログ・デバイセズ(Analog Devices)の技術フェローで、高精度コンバータのテクノロジー・ディレクターを務めるColin Lyden氏が来日し、EE Times Japanのインタビューに応じた。「いずれ高精度コンバータは、SAR型、シグマデルタ型の区別はなくなり、そしてスマート化していくだろう」など、今後のコンバータ技術トレンドを語ってもらった。
SAR型とシグマデルタ型の使い分け
EETJ SAR型とシグマデルタ型の区別がなくなりつつある中で、使い分けはどうすればよいでしょうか。またADIとしてコンバータ製品開発を行う際に、どういった基準で、両方式を使い分けていますか?
Lyden氏 SAR型とシグマデルタ型は、スペックを見ただけ10年前は区別がついたのだが、今ではどちらか分からなくなっている。
直線性に関しては、まだSAR型がシグマデルタ型に完全には追い付いたとはいえないだろう。けれども、SAR型のコンバータの中には、シグマデルタ型の直線性に追い付いたものも出てきているような状況で、より区別は付きづらくなっている。
その中で、われわれは、SAR型とシグマデルタ型をどう選択しているかというと、簡単な評価表を使って、古い考えにとらわれず、選択するようにしている。これがその評価表だ。
この表を見れば、INLは、どちらも同じだ。SAR型、シグマデルタ型どちらでも対応できる。
次に、電力効率を比較するとSAR型の方が比較的良い。けれども、これは現時点の話であり、将来的に変わる可能性もある。
決定的に違いが生じる点の1つがレイテンシだ。センサーシステムで、信号が短時間でしか有効でない場合は、レイテンシが重要な要素になる。加えて、非常に多くの信号をマルチプレキシングして1つの高品質の信号にするような工業用途で多くみられるケースでも、レイテンシの少ないものが必要になる。レイテンシが短く優れているのは、SAR型でありレイテンシはおおよそ200nsになっている。一方、シグマデルタは、非常にレイテンシが改善された最新製品の「AD7176」でさえ、20μs。シビアなレイテンシが求められる用途については、SAR型でなければならないだろう。
一方、干渉除去という面ではシグマデルタ型の方が向いている。その理由は、実際のサンプリングレートが速いということ。オーディオで使用される連続時間シグマデルタという技術の存在もあり、SAR型よりも適している。
シグマデルタ型には、将来的に大きなメリットがある。既に、非常に高性能なシグマデルタ型A-Dコンバータが集積されているSoCもあるように拡張性に勝る。冒頭にも触れたように、コンバータの長期トレンドとして、コンバータは周辺の回路、機能を取り込んでいく。そうした場合に、シグマデルタ型の優位性が発揮されるだろう。
こうしたSAR型、シグマデルタ型の比較結果は、5〜6年前と異なっている。今後も変わる可能性はあり、注意深く見ていく必要がある。
ADIの競争力は?
EETJ 速度、分解能といった競争軸から、ノイズ/電力密度、さらには高集積化という競争軸に変化する中で、ADIは競争力をどう保つのでしょうか。
Lyden氏 競争軸が異なっても、リードし続けられる。競合を注視しながら、積極的な投資を継続することで、リードを保ち広げていくことになる。
われわれのコンバータの中身は複雑だ。SAR型のように見えても中身は、シグマデルタ型やパイプライン型を使っているような場合も多く、優れたアーキテクチャ技術を持つ。またコンバータでは、プロセス技術も重要だ。高速化であれば、プロセスの微細化が問題となるが、高精度コンバータでは、微細化だけの単純なものではない。実際、高精度コンバータに現時点で最適なプロセスノードは180nmと太い。プロセスの最適化といった部分で高い技術力が必要で、これまで蓄積した技術力が生かせる部分だ。
ただ、従来のコア技術だけであらゆる結果を残せる保証はなく、新しい技術も積極的に開発している。例えば、電力効率を高める「デジタルアシステッドアナログ」という技術などであり、現在、投資を行っている。
開発の方向性
EETJ ADIとして今後、「シグマデルタ型に集中する」といったように開発方針が変わることはありますか。
Lyden氏 SAR型、シグマデルタ型ともに重要であり、パイプライン型も含めコンバータメーカーとして全ての技術を網羅していく。そして、それらシグマデルタ型、パイプライン型、SAR型を融合させた「ハイブリッド技術」も磨いていく。
各技術のトレードオフを見極め、それぞれベストな技術を使い、10年後には、パイプライン型、SAR型、シグマデルタ型といった論争は何だっただろうかというような状況を作り出したい。ユーザーは、方式、技術を意識せずに、コンバータを使えるようになるだろう。もしユーザーが、技術を意識しているような状態が続くのであれば、われわれの仕事は良くないということだ。
もう1つ今後の開発方針としては、堅牢性を組み込むなどのスマートコンバータの開発強化だ。その際、重要な要素になるのがプロセス技術の選択だろう。CMOSプロセスであるか、BCDプロセスであるかだ。過電圧保護であれば、耐圧に優れるBCDプロセス技術が必要だろう。さらにA-Dコンバータを駆動させるためのアンプもペアで開発するなどしていかなければならない。
スマートコンバータは、同一シリコン上で実現するだけにはとどまらない。既に「CFTL」と呼ぶ評価/検証済みのコンバータ周辺回路ソリューションを提供、強化している他、システムインパッケージ(SiP)などの技術も積極的に開発している。われわれは、高い技能を持たなくても簡単にコンバータ周辺回路設計が行えるような環境作りを行っていく。
いずれは、MCU/MCPでさえコンバータに搭載されたスマートコンバータが実現されることになるだろう。そうした将来を念頭に置いて、アナログ技術者だけでなく、デジタル技術者、ソフトウェア技術者も増強し、解析ツール、シミュレーションツールに関する技術開発も活発に行っていく。
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