QualcommがARMサーバ市場へ:ビジネスニュース 企業動向
QualcommがARMサーバ市場へ参入するという。64ビットアーキテクチャである「ARMv8」と互換性のあるコアを採用したプロセッサを近々発表するとしている。
Qualcommは、金融アナリスト向けの年次イベントにおいて、サーバ市場に参入する考えであることを明らかにした。同社は最近、新たに従業員を雇用したり組織改革を行ったりしているため、今回の発表については、周囲も広く想定していたのではないだろうか。
Qualcommは、詳細についてはほとんど明かしていないが、同社がサーバ市場への参入に取り組んでいくための専門グループを設立していることや、64ビットアーキテクチャ「ARMv8」との互換性を備えた、近々発表予定のCPUコアをベースとした製品を投入することなどは明らかになっている。
Qualcommは、どの分野に狙いを定めるつもりなのかは語っていないが、データセンター向けの主要な潜在顧客であるFacebookからの支持を得ているようだ。米国の市場調査会社であるTirias Researchは、「Qualcommのこれまでの背景からみて、通信インフラ市場の中でも特に無線通信の分野にターゲットを絞るのではないか」と予測している。
Qualcommは、データセンター向け市場に混乱をもたらす主な要素として、「クラウド市場の成長」「仮想環境への移行」「大規模なデータセンター顧客からの専用ソリューションに対する要望の高まり」などを挙げている。
Qualcommは、製品やその発表時期などの詳細についても、一切明らかにしていない。それでも、スマートフォン市場向けに特化した半導体チップ製品に関しては、近いうちに開発ロードマップを発表するのではないかとみられている。
64ビットARMサーバ市場には現在、AMDとApplied Micro Circuits、Broadcom、Cavium、Huaweiの5社が参入していて、Qualcommはこれらに次ぐ6社目の企業となる。
ARMサーバについては疑問の声も
ただ、サーバ向け半導体市場に関しては、Samsung Electronicsがかつて参入を断念したことからも分かるように、取り組みに非常に時間がかかる。このため、同市場におけるARMの潜在能力について、疑問視する声が多く上がっている(関連記事:サーバ用CPU市場に挑むAMDとARMの思惑――ゲーム機の成功モデルをサーバでも)。
いかなる市場でも、新たに参入を試みる場合には時間を要する。さらに、成功できるかどうかは、それぞれの市場力学によるところが大きい。携帯電話機市場では、1年に1回の頻度で新しい半導体チップやデバイスが登場するのが普通であるのに対し、サーバ市場では、数年に1回しか動きがない。主要顧客が新しいサーバを導入してからプラットフォームを構築するまでに要する期間は、エンタープライズ向けサーバでは6カ月間、通信プラットフォームでは最大18カ月に及ぶという。
ARMサーバの大規模導入は2015年後半か
ARMv8アーキテクチャは、2011年後半に発表された。2012年後半には、ARM初となるARMv8ベースの製品が発表され、さらに2013年後半には、ARMv8を採用したモバイル製品が発表されている。そして2014年後半には、ARMベースのサーバチップが初めて一般向けに供給され、HP(Hewlett Packard)などのメーカー各社が、業界初となるARMv8サーバプラットフォームを提供するようになった。今後、2015年半ばから2015年後半にかけて、ARMベースの大規模サーバが導入されるようになる見込みだ。
筆者の見解では、Qualcommは将来的に成功を収めるといえる。理由はいくつかあるが、例えば、同社が無線通信分野において専門知識やIP(Intellectual Property)を保有していること、サーバの全ての負荷をたった1種類のアーキテクチャでは対応できないことなどが挙げられる。
Qualcommのサーバ市場参入はFacebook以外からも歓迎されるだろう。サーバ市場では、より激しい競争が始まるに違いない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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