シリコンの時代は「人類滅亡の日」まで続く(後編):福田昭のデバイス通信(2)(1/2 ページ)
「ポストシリコン」の研究は、「半導体デバイスの性能を向上させるべく、非シリコン材料を使う研究」とも捉えることができる。SiC、GaNは、パワー半導体と発光デバイスでは既に採用が進んでいて、SiGeもCMOSロジック回路に導入されている。
「ポストシリコン」研究の意義
前編では、「ポストシリコン」材料がシリコン材料を置き換えてデバイスの主役になる可能性は極めて低いことと、その理由を説明した。
それでは「ポストシリコン」の研究開発は意味がないのだろうか。研究成果を学術論文として学会や論文誌などで発表する意義は、もちろん存在する。博士号を取得したり、研究予算を獲得したり、大学教員あるいは研究所員として出世したりといった、研究コミュニティの発展には寄与する。もっともそれだけでは「研究のための研究」に終わってしまう。
「ポストシリコン」研究の意味を「半導体デバイスの性能を向上させるためにシリコン以外の材料(非シリコン材料)を使う」研究と捉えると、研究開発の意味は大きく違ってくる。「研究のための研究」どころではない。既に数多くの非シリコン材料がメインストリームのシリコン半導体トランジスタに使われている。
例えばゲルマニウムである。ゲルマニウムはシリコンと同じIV族の半導体材料であり、初期(1950年代〜1960年代)の半導体トランジスタではゲルマニウムが主役であった。シリコン半導体の性能向上によって主役の座を奪われてからしばらくは、ゲルマニウム不在の時代が続いた。
ゲルマニウムが再び注目を浴びるのは、1980年代の後半である。超高速デバイスの研究開発においてだ。シリコンとゲルマニウムの化合物(SiGe化合物)をバイポーラトランジスタのベースに採用することで、極めて電流駆動能力の高いトランジスタを開発できた。バイポーラ技術とCMOS技術の両方を駆使する高速デバイスの一部には、現在でもSiGe化合物が使われている。
1990年代後半には、pチャンネルMOSFETにSiGe化合物を導入したCMOS技術の開発が活発になってきた。ご存じのように、CMOS技術はnチャンネルMOSFETとpチャンネルMOSFETで構成されている。nチャンネルMOSとpチャンネルMOSでは、トランジスタの性能に差がある。粗く言ってしまうと、pチャンネルMOSは電流駆動能力があまり高くない。言い換えると遅い。このため、一部の高速ロジック回路では特にクリティカルな部分をnチャンネルMOSだけで組んだりしていた。この方法は消費電力の増大を招くので、あまり好ましいとは言えない。
ここでpチャンネルMOSのソースとドレインをシリコン(Si)からSiGe化合物に置き換えると、SiとSiGeの格子定数の違いによってチャンネル領域に圧縮応力が働き、キャリア(正孔)の移動度が上昇する。この結果、pチャンネルMOSの電流駆動能力が増加する。「歪みシリコン(Si)」と呼ばれるこの技術は、2000年代の始めに90nm世代の高速CMOSロジック回路に導入された。20nm/22nmといった最先端のCMOSロジックでも、歪みシリコン技術は標準的に利用されている。
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