量子センサーの感度を1桁向上させる理論を考案:新技術(2/2 ページ)
NTTなどは2015年3月、ダイヤモンド中に閉じ込められた電子スピンに超電導磁束量子ビットを結合させることで、ダイヤモンド中の電子スピンの寿命が約10倍に伸びることを「世界で初めて示した」と発表した。開発した理論により量子センサーの感度を10倍程度高められるという。
結合で寿命が延びるメカニズム
ダイヤモンド結晶中で、本来は炭素のあるべき位置に置き換わった窒素と、炭素が抜けてできた空孔との対から構成されるものを「NV中心」と呼び、単一のNV中心には同じエネルギーを持つ2つの励起状態が存在しする。そのため、環境からノイズが加えられると、ノイズのエネルギーが小さいものであっても2つの励起状態の間に遷移を起こしてしまうため、寿命が短くなることが知られている。
研究チームは、単一NV中心に量子ビットを結合させると、単一NV中心の励起状態をエネルギー的に分離することができることを考案。NV中心の持つ2つの励起状態のうち、片方の励起状態は量子ビットと結合するためにエネルギーシフトが起こるが、もう一方の励起状態は量子ビットと結合しないために、エネルギーに変化が起こらない。このメカニズムによりNV中心の励起状態間にエネルギー差が生じて、低エネルギーのノイズからの影響を受けづらくなる。そのため、環境からのノイズに対して耐性を持ち、寿命が向上する。
こうした理論を基に、数値計算による予測を行った結果、10μ秒程度の超電導磁束量子ビットを結合させると、100μ秒程度の寿命を持っていた単一NV中心が900μ秒以上の寿命を持つようになることを突き止めたという。
なお、一般的には、超電導磁束量子ビットと単一NV中心のハイブリッド化は、結合が弱いために難しいと考えられているが、「弱結合の領域でも、寿命の改善がみられることが明らかになった」としている。
実証の後、「量子絡み合いセンサー」に向けた開発へ
今後、4者は単一のNV中心を実際に超電導磁束量子ビットに結合させ、寿命の向上を実証する実験に取り組む他、このハイブリッド素子を用いた高感度量子センサーの実現に向けた研究も進める。さらに将来的には、局所的な領域に複数のNV中心を閉じ込め、そのNV中心間に量子的な絡みあいを生成し、古典限界を超える感度のセンシングの実現を目指す方針。量子絡み合いセンサーが実現されると、数十nm程度の局所領域での磁場、電場、温度などといった情報を高効率で検知できるようになるとされている。
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