Appleはどこへ？――ここ1年で買収した10社から検証：まさに“買いあさり”状態（3/4 ページ）

Appleは積極的に買収戦略を展開している。2014年5月、CEOのTim Cook氏は、その時点までの18カ月間で24社を買収したことを明らかにした。今回は、Appleが2014年と2015年に行った買収案件の中から10件を紹介し、それぞれの狙いについて考察してみる。

[Kelly Sheridan，EE Times]

【4】Prss――デジタル出版

　だが、Appleによるメディア関連の取り組みが音楽分野に集中しているわけではない。デジタルマガジンの編集アプリ開発を手掛ける新興企業Prssを2014年9月に買収したことからも明らかなように、Appleはデジタル出版事業も手に入れようとしている。Prssのアプリは、コーディングの知識を持たない人でも、ドラッグ・アンド・ドロップの操作で、「iOS」対応のデジタル新聞や雑誌を簡単に制作できるようになるというもの。

　この買収は、オランダのiOS関連ブログ「iCulture」で初めて報じられ、その後複数のニュースサイトで取り上げられた。Appleはいつも通り買収について沈黙を貫いたが、MacRumorsは、Prssが2014年7月に操業を停止し、オランダを拠点とするチームの大部分をサンフランシスコに移したと記載している。

【5】Swell――コンテンツ配信

　2014年6月後半、Appleがラジオアプリを手掛けるSwellを3000万米ドルで買収するとRe/codeが報じた。

　SwellのiOSアプリ「Swell」は、ニュースやトークラジオのコンテンツを主な特徴としており、ユーザーの好みを分析して、個人の趣向に合わせたポッドキャスト配信を作り上げるために用いられていた。Swellは、車載インフォテインメント向けのアプリも開発している。SwellのアプリはApp Storeから無償で提供されていて、Apple Insiderの情報によれば、ユーザーの評価は平均で4.5点（5点満点）だった。批判的なレビューが多く、評価点が低いAppleのPodcastアプリに比べると、評判のよいアプリのようだ。Swellのアプリは既に提供が終了しているが、AppleはSwellの技術を用いて、Podcastサービスを強化すると見られている。

【6】BookLamp――デジタル書籍

　Swellの買収と同時期に、Appleは米国アイダホ州に拠点を置くBookLampも密かに買収していた。この買収は、TechCrunchの報道によって明らかになっている。

　BookLampはビッグデータを用いて本の分析サービスを開発した。最もよく知られたサービスである「Book Genome Project」は、特定の本の場面や詳細を分析し、類似したオススメの本の情報をユーザーに提供する。

　Appleは1000万〜1500万米ドルを投じて、自社のiBooksサービスにとって非常に有利になり得る技術と人材を得たのである。

　Appleは、音楽配信サービスの分野でSpotifyとの真っ向勝負に挑もうとしているが、BookLampを手に入れたことで、電子書籍の分野でAmazonと勝負できる土俵に上がれるかもしれない。

【7】Beats Electronics/Beats Music――音楽配信サービス

　Appleは2014年5月、音楽配信サービスを手掛けるBeats Musicと、ヘッドフォンやスピーカ、オーディオソフトを手掛けるBeats Electronicsを買収することで合意したと発表した。買収額は30億米ドルである。2014年8月には取引が完了し、Beatsを“Appleファミリー”として公式に迎え入れていた。

　Appleがこの買収契約を結ぶ決め手となったのは、Beatsの中核事業であるヘッドフォンと音楽サービスだった。The New York Timesが報じたところによると、Appleは現在、「iTunes Radio」に加え、会員制ストリーミングサービスの立ち上げに取り組んでいるという。Appleに近い情報筋によると、このサービスが始まれば、他のどこよりも早くiTunesでリリースされるアルバムが増える可能性があるという。

　Beatsがデジタル音楽戦略でのキープレイヤーとしてAppleに期待されているというのは、iTunes Radio関連のプロジェクトを誰が率いているのかを見ても明らかだ。Appleの音楽アプリの変革を支えている原動力は、Nine Inch Nails（ナイン・インチ・ネイルズ）のリーダーで、Beatsで最高制作責任者（CCO）を務めていたTrent Reznor（トレント・レズナー）なのである。