低消費電力素子に応用可能なトポロジカル絶縁体薄膜の作製に成功:半導体でも絶縁体でも金属でもない新物質(2/2 ページ)
理化学研究所は2015年4月15日、東北大学と共同でエネルギー損失なく電流が流れるトポロジカル絶縁体の薄膜の作製に成功したと発表した。
インジウムリン(InP)基板上に成膜
理化学研究所などの研究グループは今回、内部に結晶欠陥のないトポロジカル絶縁体薄膜を作製すべく、トポロジカル絶縁体の1種である「(Bi0.12Sb0.88)2Te3」(Bi:ビスマス、Sb:アンチモン、Te:テルル)の薄膜を、半導体材料であるインジウムリン(InP)基板上に作製した。
同時に、ディラック状態であれば可能な「電子の流れと正孔(電子が欠落した部分)の流れの電気的制御」が行えるかどうかを確認するため、作製したトポロジカル絶縁体薄膜上に、絶縁体酸化膜と電極材料を取り付けて、電界効果型トランジスタ構造を形成。外部からの制御電圧を用いて、試料内部の電子数を連続的に変化させられるデバイス素子構造として一般的な構造を作った。
そして研究グループは、一定の磁場(14テスラ)下で制御電圧を変化させながらホール抵抗を測定した。その結果、ある範囲の制御電圧領域でホール抵抗が量子化抵抗値(約25.8kΩ=h/e2)で一定となったことを確認。量子化抵抗が一定値を示すことは、トポロジカル絶縁体である(Bi0.12Sb0.88)2Te3薄膜が整数量子ホール状態*)になっていることを示す。また、図2の右のように、電子と正孔の両方の流れを制御できたことを意味するホール抵抗が±h/e2と正と負の2つの値をとることも確認した。
*)整数量子ホール状態:磁場中を運動する電子にはローレンツ力が働き、電子の運動軌道が曲げられる。この効果をホール効果という。それによって生じる抵抗はホール抵抗、ホール抵抗が量子化する現象を量子ホール効果と呼び、抵抗標準値の基準に利用されている。整数量子ホール状態では、ホール抵抗が量子化抵抗(約25.8kΩ=h/e2:hはプランク定数、eは電気素量)の1/2、1/3、1/4……と厳密に整数分の1になる。この時、試料の端にエネルギー損失のない「エッジ電流」が流れている。
さらに、電気抵抗の制御電圧依存性の実験も行い、整数量子ホール状態になっている領域では抵抗値が低い一方、2つの整数量子ホール状態の中間で高抵抗となることを確認。トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態に特有の特殊な絶縁体になることを見いだした。同実験では、電気抵抗の値が1Vの外部電圧変化によって10倍に増大することも検出している。
こうした検証により、トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態の量子化を電気伝導手法で検出でき、外部電圧によって制御できることを示した。
低消費電力素子への展開が期待できる
研究グループでは、「今後さらに改良することでより高抵抗な状態を作り出し、絶縁体状態でも情報などを伝達できる可能性の探索に向けて、新たな量子状態の研究が進むと考えられる」とする。また、「(検証に用いた素子構造は)既存の半導体技術とトポロジカル絶縁体特有のディラック状態が融合した、3端子デバイスの1つの例であり、今後、低消費電力素子への展開が期待できる」としている。
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