デバイス内の熱輸送現象の解析を可能に、理研が新理論を構築:新技術
理化学研究所は、デバイス内の熱流や温度差によって生じる熱輸送現象の解析を可能とする理論体系を構築した。熱輸送現象による電流やスピン流などを高い確度で予測できることを示した。
理化学研究所は2015年5月、デバイス内の熱流や温度差によって生じる熱輸送現象の解析を可能とする理論体系を構築したと発表した。この理論を活用することで、電子の輸送現象と同じように、熱輸送現象の解析も容易に行うことが可能になるという。
理化学研究所の創発物性科学研究センタースピン物性理論研究チームのリーダーを務める多々良源(たたら・げん)氏は、電磁場の理論と同様にベクトルポテンシャルと呼ばれる変数を導入することで、熱輸送現象を扱う新しい理論体系を構築した。この理論を用いて、熱輸送現象による電流やスピン流などを、高い確度で予測できることを示した。
ベクトルポテンシャルには、電流を生み出す働きがあるという。この効果を電子の輸送現象の理論体系に組み込んで電子の動きを解析すれば、デバイス内部における電気信号の解析や、磁気記録デバイスにおける情報の読み書き特性などを評価することが可能となる。
多々良氏は、電場の代わりに温度差によって生じる電流やスピン流といった熱輸送現象について、温度差と熱を運ぶ熱流の特性をベクトルポテンシャルで表し、理論を定式化することに成功した。この定式化によって、熱輸送現象を容易に解析することが可能となり、これまで推測とされてきた「金属中の電子に対して、電場と温度差の効果は同様に働く」という直観的な期待を裏付けることになった。
さらに、熱輸送現象の問題は、ある近似値の範囲でアインシュタインの一般相対性理論と全く同じ論理的構造を持っていることも明らかになった。
多々良氏は今回の研究成果を基に、今後はデバイス中の熱を効率よく輸送する仕組みや物質の設計、熱による温度差を用いた新しいデバイス動作の可能性、などを研究していく方針である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 低消費電力素子に応用可能なトポロジカル絶縁体薄膜の作製に成功
理化学研究所は2015年4月15日、東北大学と共同でエネルギー損失なく電流が流れるトポロジカル絶縁体の薄膜の作製に成功したと発表した。 - 光通信デバイスに「透磁率」の概念導入、光変調器を1/100程度に小型化可能
東京工業大学(東工大)、理化学研究所、岡山大学の研究グループは、光通信デバイスの開発において、これまでの「誘電率」制御に加えて、「透磁率」制御の概念を導入することに成功した。これまでより極めて小さく、高性能なデバイスを実現することが可能となる。 - 光電変換効率を向上、強相関太陽電池の実現に期待
理化学研究所と東京大学は、光の照射によって相移転を起こす強相関電子系酸化物と半導体を接合した太陽電池を試作するとともに、その接合界面の近いところで相競合状態を誘起することに成功し、磁場によって太陽電池の光電変換効率を向上させることが可能であることを発見した。 - 中性の水から水素/有機燃料を効率よく製造、理研と東大がメカニズムを解明
理化学研究所(理研)と東京大学は、中性の水を分解して電子を取り出すことができる「人工マンガン触媒」を開発した。今回の研究成果は、中性の水を電子源とした水素あるいは低環境負荷の有機燃料の製造につながると期待されている。 - スパコン性能ランキング、性能の向上は鈍化傾向に――「TOP500」2014年11月版
スーパーコンピュータ(スパコン)の性能ランキング「TOP500」の2014年11月版が発表された。首位は中国の「天河2号」で、日本の「京」は4位。順位の変動が少なく、PFLOPSレベルの性能を実現したシステムが増えたものの、全体的に性能の向上には鈍化の傾向が見られるという。