「ウェアラブル端末は医療用途には不十分」、新興企業のCEOが指摘:「Apple Watch」もフィットネス向け
血圧などを測定できるウェアラブル端末は数多く市場に投入されているものの、新興企業Bloom TechnologiesのCEOは、「医療診断に使えるレベルには至っていない」と指摘する。医療用に使うデータとなれば、最も必要なのは高い信頼性だ。「Apple Watch」で取得できるデータも、“医療向け”ではなく、あくまで“フィットネス向け”のものである。
医療用機器の開発を手掛ける新興企業Bloom Technologiesで、CEOを務めるJulien Penders氏は、「既存のウェアラブル機器は、医療診断に使用できるレベルには至っていない」と指摘する*)。同氏は、米国カリフォルニア州サンタクララで2015年7月20〜22日に開催予定の「Embedded Systems Conference 2015(ESC 2015)」において、自身の見解と取り組みの成果について語る予定だという。
*)関連記事:ヘルスケア向けウェアラブル機器、“価値の創造”はまだこれから
Penders氏は、「例えば『Apple Watch』は、非常に素晴らしい端末だが、医者や医学研究者たちが必要とするようなデータを提供することはできない」と指摘する。同氏はかつて、ベルギーの研究機関IMECの研究者だった経歴も持つ。
同氏は、「ヘルスケアの観点から見ると、Apple Watchの機能には限界がある。例えば、センサーの品質は、他の既存のシステムで使われているものと同程度にとどまっている上、データの信頼性も極めて低く、やや期待外れだといえる」と述べる。
さらに同氏は、「それでもApple Watchは、スマートフォンの拡張機能として通知を行うことが可能な、優れたユーザーエクスペリエンスと設計を実現している。極めて重要な一歩を踏み出した製品だといえる」と付け加えた。
“業界初”の医療向けウェアラブルを目指す
Bloom Technologiesは2015年末をメドに、業界初となる医療用途向けのウェアラブルヘルスケア機器を実用化したい考えだ。このような機器に求められるのは、センサーから送られてくるデータの信頼性をユーザーが判断できるよう、コンテキスト情報を提供するという機能だ。
本当に役に立つヘルスケア機器を実現するには、病院と家庭の両方において試験を実施し、機器を検証する必要がある。
Bloom Technologiesは同社初の製品として、妊娠センサーの開発を手掛けている。妊娠中の母親が、前駆陣痛ではなく本陣痛がいつ始まるのかを判断できるようにするというものだ。Penders氏は、「当社は、妊娠の状態に焦点を絞っている。機器を実際に使用してもらいながら、製品の使い勝手の課題などを解決するとともに、臨床的な成果を迅速に検討する必要がある」と述べている。
この機器に関しては、既に欧州で臨床試験を行っていて、2015年末までには米国内で販売を開始できる予定だという。
もし全てがうまく進めば、Bloom Technologiesだけでなく業界にとっても初めてとなる、医療用途向けのウェアラブル機器シリーズを実現できることになる。Penders氏は、「現在、製品やアプリを完成させるための作業を進めている他、2015年6月にはβテストも予定しているなど、非常に忙しい状況にあるが、数多くの教訓を得ることができた」と述べる。
「HealthKit」には注目
Bloom Technologiesはこれまで、Samsung Electronicsとの協業によって取り組みを進めてきた。その背景の1つには、Samsungが以前にSmartThingsを買収したことにより、オープンクラウドプラットフォームを提供しているという点がある。
一方で、Penders氏はAppleの「HealthKit」と「Research Kit」にも注目している。HealthKitは、ヘルスケア・フィットネス向けアプリを連結するためのツールで、Research Kitは医療データ収集アプリである。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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