「iPhone」に見る新たな価値の作り方〜企業が追求すべき「意味的価値」とは?:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(4)(4/4 ページ)
顧客に支持される製品を作るためには、製品の機能や性能だけに依存しない“本当の価値”を創出することが重要だ。これが「意味的価値」というものである。今回は「iPhone」を例に取り、iPhoneがいかに新たな価値を生み出したかを見てみよう。その上で、メーカーが追求すべく「意味的価値」について解説したい。
モノづくり戦略論・産業論
第1回において、本連載で「伝えたいこと」と「目的」を示したが、あらためて以下に示す。
【本連載でお伝えしたいこと】
- 強い製造業、製造メーカーになるために、上流の現場エンジニアが知っておくとためになること
- ちゃんと売れて、お客さまも喜んでくれる製品を世の中に出すことを目的とし、付加価値や価値を生み出す組織づくりを考えること
- パクられても何ら困ることのない製品設計にすること
【本連載の目的】
「組織能力」をいかに「製品の付加価値」と「設計の思想(=製品アーキテクチャ)」に入れ込んでいくのかを提案すること
とかく、モノづくりの論議となると、これはマスメディアの責任も大きいと思うが、内容が機械加工など“メカ”領域がフォーカスされがちだ。日本人ならではの手先の器用さ、カイゼン等の小集団活動に真摯に取り組み、現場で強さを発揮している。したがって、「現場=製造部門」と思われやすいが、どの部門であろうが、現場は現場なのである。開発・設計・技術をはじめ、企画部門も現場である。
第4次産業革命と言われるドイツ政府推進の国家プロジェクト「インダストリー4.0」も同様だ。CADやCAE等のソフトウェアツールや3Dプリンターの普及も目覚ましく、モノづくりそのものの敷居が低くなることは喜ばしい。
しかし、今は“エレクトロニクス”や“ソフト”を除外して考えられない。高精度な機械加工ができるようになった背景には、エレクトロニクス・ソフトウェアの制御があって初めて成り立っている。
より大きな視点で、先の伝えたいこと・目的を示すと、図3のとおりとなる。
これは、東京大学教授/東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏氏が述べている「モノづくり戦略論・産業論」のチャートである。「モノづくりの組織能力」と「製品アーキテクチャ」が示されていることが分かる。参考までに、前者については本連載の第5回、後者は第6回で解説する予定だ。
モノづくり現場の「設計情報」にこだわり、製品における設計のあり方と組立を考える戦略論・産業論であるが、内容の多くはメカ領域に偏っている。
筆者はエレクトロニクスのハードウェア設計経験者であると同時に、本連載を掲載しているEE Times自身がエレクトロニクス分野だ。「モノづくりの組織能力」と「製品アーキテクチャ」もメカの世界にのみ存在するものではない。
M(機械)だけでなく、エレキ(電気)、ソフト(Soft)の観点から、一緒に考えていきたいと思っている。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。
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