ARMから見た7nm CMOS時代のCPU設計(17)〜次々世代の配線技術と回路技術:福田昭のデバイス通信(28)(2/2 ページ)
今回は、金属配線の微細化に伴う課題を取り上げる。信号の周波数当たりの配線長や、エレクトロマイグレーションといった問題があるが、これらを根本的に解決する策として期待がかかるのが、配線材料の変更や印刷エレクトロニクスの実用化である。
極めて低い製造コストが魅力的な印刷エレクトロニクス
既存の半導体デバイスとは全く異なるアプローチにも期待がかかる。その1つが、「プリンタブルエレクトロニクス(印刷エレクトロニクス)」と呼ぶ、プラスチック基板に印刷技術で有機半導体の電子回路を構築する技術である。
プリンタブルエレクトロニクスの最大の特徴は、製造コストの低さだ。シリコンの半導体プロセスと比べ、単位面積当たりの製造コストは4000分の1と恐ろしく低い。シリコン半導体プロセスは1m2当たりの製造コストが約4万ドルであるのに対し、プリンタブルエレクトロニクスの製造コストは1m2当たりで10ドルに過ぎない。
プリンタブルエレクトロニクスが抱える問題点は、キャリアの移動度がシリコン半導体デバイスに比べるとはるかに低いことだ。これはプリンタブルエレクトロニクスでは半導体材料がシリコンではなく、有機物であることに依存する。印刷技術で集積回路を製造しても、動作は極めて遅い。実用的な速度では動作しないことが少なくない。
しかし最近になって、プラスチック基板に印刷技術で製造した有機半導体トランジスタのキャリア移動度は急速に改善されてきた。西暦2000年ころには通常のMOSトランジスタの1000分の1程度しかなかった移動度が、2010年ころには100分の1に、そして2010年代前半には10分の1近くと著しく向上したのだ。2011年2月に開催された国際学会ISSCCでは、マイクロプロセッサ回路をフィルム状のプラスチック基板に試作した研究成果が披露された。
既存のシリコンCMOSデバイス(nMOSトランジスタとpMOSトランジスタ)のキャリア移動度と、プリンタブルエレクトロニクスによる薄膜トランジスタ(図中の「TFT」)のキャリア移動度。出典:ARM(クリックで拡大)
フレキシブルな電子回路が医療・健康応用にマッチ
製造コストの低さと同じくらいに重要なプリンタブルエレクトロニクスの特長に、「柔らかさ」がある。プラスチック・フィルムが基板なので、かなり自由に曲げられる。
この特徴は医療分野や健康管理分野への応用に適していることを意味する。人体の表面はたいがい、複雑にうねっているからだ。プラスチック・フィルムは、その複雑なうねりに合わせて曲がる。フィルム基板に形成した電子回路を人体の皮膚に貼り付けることで、生体の様々な信号(脈拍、体温、血圧など)を取得できるようになる。
(次回に続く)
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