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真似されない技術はどう磨く? 〜モノづくりのための組織能力とは勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(5)(4/4 ページ)

たとえ技術の中身が全て開示されても、“同じモノ”が作られることはない――。これが真に“模倣されない”技術である。では、そのような技術はどうやって手に入れればいいのか。トヨタ生産方式(TPS)の秘話を交えながら、考えていこう。

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模倣されない技術

 「真似できるものなら真似てみろ!」……とはなかなかに強気な姿勢である。エンジニアで一流を極めた者ならば、一度はこういうせりふを吐いてみたいのではないかと思う。

 では、真似されないためには、どうすればいいのか?

 真似された企業が真似をした企業の上を常にいけばいいのである。仮に知財で守ればよいと正論を言ったところで、技術の盗用に対する批判には聞く耳を持たない国家もある。

 だが、自社が他社、特に競合の上を常にいくというのは、そうたやすいことではない。そこで、“容易に真似できない領域”、つまり「真似したくとも真似できない」。これがかなえば「模倣されない」わけである。たとえ技術を盗用されたとしても、なんら困ることはない。なぜなら、「技術の中身が全てわかったとしても、決して同じものは作れない」からだ。

 一橋大学イノベーション研究センターの延岡健太郎教授(参考記事)の著書『価値づくり経営の論理(日本経済新聞社)』において、“革新技術”と“積み重ね技術”について記している。図4は、筆者がチャート化し加筆したものである。

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図4 模倣されない技術(クリックで拡大)

 ここでは、「模倣されない技術」として、“革新技術”と“積み重ね技術”に分けている。革新技術は、第1回で述べたイノベーションに近いものだ。延岡氏は、“積み重ね技術”こそが大事だと言っている。筆者も全く同感である。

 積み重ね技術は、組織が長い時間をかけた経験学習の積み重ねであり、まさに組織能力そのものだ。組織能力のことを、複雑で困難なプロセスを組織として自然に実現し得る能力と書いたが、企業組織に属している社員からすれば、とてつもなく難しいことをやっているのではなく、「自然にやってしまっている」のである。しかし、他社からすれば“容易に真似できない領域”となる。

組織能力は組織学習

 組織能力には“組織学習”が欠かせない。この組織学習については、一言で語るのがなかなか難しいので、筆者の以前の記事『いまどきエンジニアの育て方(4)』を参照されたい。組織的に部門の中で、“学び合う文化”“対話を通じた人間関係・信頼関係の醸成”“人が育つ環境づくり”を行っている。これらにより、組織および組織を構成する個人が繰り返し学習し、高い設計能力や開発能力、問題解決能力などを蓄積していく。これらを総称して組織学習と呼んでいる。

 すなわち、長い時間をかけて形成された組織学習ができる環境の中から、積み重ね技術が生まれ、さまざまな能力を発揮していくのだ。「鍛え続けた強み」はこの環境下でさらに磨かれることとなり、“容易に真似できない領域”を確固たるものとしていく。そして、他社が容易に真似できない、つまり、「模倣されない技術」になる。

 しかし、これは「模倣されない技術」を片側からしか見ていないとも言える。

 積み重ね技術や学習する組織能力の側面だけでなく、製品の設計思想、構造といった点からも見ていかないとならない。

 第2回ではDVDを例に、従来のアナログ型レコーダー(ビデオデッキ)と対比させながら述べたが、アナログよりデジタルの方が模倣されやすいことは言うまでもない。では、模倣をさけるために、今さらアナログ的な製品に後戻りするかと言えば、それはあり得ないだろう。デジタル、アナログ双方の共存共栄が必要である。

 モノづくりのプロセスにおける上流工程の設計、開発において、模倣されても困らないモノづくりが重要となってくる。これがアーキテクチャであり、前述した模倣されない技術のもう一方の側面だ。アーキテクチャについては、次回、お話ししよう。


Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。


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