ダイエットは2カ月以上続かない!? 〜その真偽を検証してみる:世界を「数字」で回してみよう(16) ダイエット(9/9 ページ)
第1回で、「1つのダイエットを、2カ月以上連続して続けることができない」という仮説を立てました。個人のダイエットブログを基に、この仮説を検証したところ、なんと2カ月どころか1日も続かないような人が続出していることが分かったのです。これはいったい、どういうことなのでしょうか。
(付録2)後輩Bの主張
後輩B:「質問は3つあります。1つ目は、「美容」と「恋愛」を切り離して論じているのは、意図的ですか」
江端:「1つ目は、『美容』を『恋愛』と無条件に結び付ける考え方について、家族(嫁さん、長女、次女)から徹底的な批判を受け続けてきたからだ。『別に異性の目を気にしてオシャレや化粧をする訳ではない。オシャレはオシャレとして、化粧は化粧として、独立して楽しいものなの!』と、随分叱られたもんだ」
後輩B:「なるほど」
江端:「2つ目は、『恋愛』や『結婚』という言葉がブログの中に全く出てこないし、現時点ではそれを示唆するようなフレーズも見付けられていないから。まあ、逆に見れば、『恋愛』や『結婚』がからんだダイエットは、ブログなんぞでは公表しない、ということかもしれないけど」
後輩B:「では2点目。今回の調査対象『ブログ』なんですね。なんでツイッターや他のSNSから解析しなかったんですか」
江端:「実はやってみたけど、全然埒(らち)が上がらなくて。ツイッターぐらいの短文では、コンテクストを解析するには不十分だったんだ。それと、同一スレッドの追跡や日時の特定も凄く難しくて」
後輩B:「そういうことですか」
江端:「というか、ブログでさえこの悲惨な結果だからね。ツイッター解析なんぞ、時間の無駄だろうと思ってしまったのも事実だけどね」
後輩B:「では第3点目です。江端さんは、ダイエットを『利益モデル』として把握しようとしていますね」
江端:「ま、そうかな。というか、それ以外に何かあるか?」
後輩B:「この4月から、私は、ハイソサエティで、エレガントで、セレブな街、赤坂で働いているんですが、そこから、皇居が近いんですよ」
江端:「……何が言いたい?」
後輩B:「皇居の回りのランナー達の数、どれくらいか想像できますか? 夕方7時頃からたくさんの人が走っているんですよ。9時頃にはすごい数の人になります」
江端:「ダイエットのため、か?」
後輩B:「ああ、やっぱりダメだ。横浜辺りの田舎の民は、このハイソな都会人のエレガントの思考形態が理解できない」
江端:「……聞いてやる。続けろ」
後輩B:「江端さん。走ることは、それ自体が娯楽であり、快感であり、自己実現の一態様なのですよ。そこに『ダイエット』やら『痩せる』やら、そんなチンケな『利益モデル』なんぞ入り込んでくる余地はないわけですよ」
江端:「……で?」
後輩B:「江端さんには、『ダイエットそれ自体が目的である』という考えに、触れることもできなかったわけですよね? いやいや分かりますよ。『ダイエットは苦痛を伴うものであり、何らかのメリットとバーターになって成立するものだ』と、そう思っているんでしょう。多分、江端さんは正しいのです。でも、その可能性を示唆できなかったことに、このハイソな都会人である、この私との決定的な差が……」
私は、黙って、電話を切りました。
(謝辞)
この度、NTTデータ 数理システム様より、ブログなどのテキストを解析するためのテキストマイニングツール「Text Mining Studio」、膨大な数字データを分析するためのデータマイニングツール「Visual Mining Studio」、さらに数理解析およびベイズ推論を行うためのベイジアンネットワーク構築ツール「BAYONET」を貸していただけることになりました。
この場を借りて、御礼申し上げます。
※本記事へのコメントは、江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。
アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 誰も望んでいない“グローバル化”、それでもエンジニアが海外に送り込まれる理由とは?
今回は実践編(プレゼンテーション[後編])です。前編ではプレゼンの“表向き”の戦略を紹介しましたが、後編では、プレゼンにおける、もっとドロドロした“オトナの事情”に絡む事項、すなわち“裏向き”の戦略についてお話します。裏向きの戦略とは、ひと言で言うなら「空気を読む」こと。ではなぜ、それが大事になってくるのでしょうか。その答えは、グローバル化について、ある大胆な仮説を立てれば見えてきます。 - 「英語に愛されているか否か」を客観的に検証する
自分は英語に愛されていない――。人は、何をもってそう判断しているのでしょうか。自分ではそう思っていても、他人はそのように思っていない可能性は否定できません。今回は、「本当に英語に愛されていないのか」を客観的に探る、ごく簡単な方法をお伝えしようと思います。