アナターゼ表面の原子や欠陥を特定、太陽電池のエネルギー変換効率向上へ:電池/エネルギー アナターゼ(2/2 ページ)
物質・材料研究機構(NIMS)を中心とする研究チームは、アナターゼ型酸化チタン(以下、アナターゼ)の表面を原子レベルで可視化して、原子や欠陥の種類を特定することに成功した。今回の成果は、光触媒や太陽電池などに用いるエネルギー材料の変換効率をさらに向上させることができる技術として期待されている。
水の単分子をマーカー
そこで今回は、水の単分子をマーカーとして用いた。これによって、吸着させた水分子周辺をAFMとSTMによって同時測定し、得られた画像と第一原理計算結果とを比較した結果、AFM像の明るい楕円が最表面の酸素原子によるものであることを突き止めた。STMでは、第3層目のチタンが明るく映ることも分かった。
有機太陽電池や水分解のための材料開発へ
また、マドリード自治大学の研究グループによる第一原理計算と実験結果との比較から、最表面の酸素原子と第三層チタン原子の特定に加えて、散見される不純物が表面内部の酸素欠損と水素吸着により生じた表面水素基であることが明らかになった。従来のSTMでは、試料表面との間に流れる電流によって顕微鏡の探針と表面との距離を保っており、電気が流れにくいアナターゼ上では安定してスキャンすることは困難であったため、欠陥の種類を特定するまでは至っていなかったという。
これに対して、今回採用したAFM-STMの同時測定では、試料表面と探針との間に働く力(ファンデルワールス力等)を一定にするAFMモードを用いて距離の制御を行うため、試料の伝導度に関係なく、安定してスキャンすることができるという。同時に得られる電流像(STM像)と、理論シミュレーションの結果と比較することで、欠陥の種類を特定することに成功した。AFM-STM同時測定の手法が、バンドギャップの大きな材料に対しても、原子解像度で材料評価ができる技術として有効であることを示した。
研究チームは、今回の開発成果で得られた表面状態の情報をもとに、同じ研究グループで最近開発した3次元的な形状を持つ分子や表面を原子解像度で可視化するAFM技術と組み合わせることで、アナターゼ上で起こりうる複雑な現象について研究を進め、有機太陽電池や水分解のための材料開発に必要となる指針の提供を行っていく予定だ。
なお、本研究成果は現地時間2015年6月29日に、Nature Communications誌オンライン版に掲載された。
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