製品アーキテクチャの基礎(前編):勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(6)(2/5 ページ)
今回から、いよいよ製品アーキテクチャの基本に入る。ここでは、分かりやすいように、自動車産業におけるモノづくりを知ることから始めたい。その後、製品アーキテクチャの種類と概要を紹介する。そのうちの1つは、日本の電機メーカーが本来“得意だった”はずのものだ。
モノづくりと設計情報
さて、読者の皆さんは「設計情報」と聞くと何をイメージするだろうか? 回路図などの図面や仕様書と答える人もいるだろうし、図面や仕様書を作る(設計する)ための必要情報と答える人もいるだろう。要は「設計のためのインプット情報が設計情報」であるという解釈が多いのではないだろうか?
先の藤本隆宏氏による設計情報はモノづくりと関連付けて図2のように定義される。図2では、自動車のボディが鉄板をプレスする工程を経て、お客様の手元に届くまでの一連の流れを示している。
この図でいうと、「お客様がカッコいいと思ってくれるボディのデザイン」そのものが“設計情報”であり、設計情報を創造することが開発の仕事である。この場合、実際には金型の設計に他ならない。さらに、ボディの元となる鉄板(“媒体(素材)”と呼ぶ)を買ってくるのが購買の仕事。そして、ボディのデザインを購買が買ってきた鉄板を複数のプレス工程にて加工すること(“(設計情報の)転写”)が、生産の仕事。さらに、転写された媒体はお客様の手元に届けられ顧客満足を得るのであるが、これを販売と定義している。
要は、「金型が持つ“設計情報”を、鉄板という“媒体”に“転写”することで、自動車のボディに変身する」という一連の流れだ。顧客へ向かう設計情報の流れを作ることがモノづくりであり、この流れを効率よく正確なものにすることが重要であると説く。すなわち、「製品=設計情報+媒体(素材)」と述べている。
さて、読者諸氏はエレクトロニクス技術者であろうから、自動車のプレスの話を出されてもピンとこないかもしれない。事実、著者も当初は「言われていればその通りだけど、あえて話を複雑にしていない??」と当初は疑問に思ったものだ。
お菓子のクッキーの型抜きではないが、プレスでガチャンとやれば、その通りの形にできあがる。確かに、“転写”というのは的を得ているように思えるが、エレクトロニクスの設計において同様のことがすぐに頭に思い浮かぶだろうか?
回路設計をしていて、ガチャンとすれば、電子部品が搭載されたプリント基板が出来上がるわけがない。まして、それがまともに動くかどうかなど考えてみることの方がばかばかしい。しいて言うならば、プログラマブル(例えばASIC)ではないICなどの製造工程においては、マスクを用いてフォトリソグラフィーによるパターニングプロセスがあり、これは写真の露光と似たようなものなので、転写に近いかもしれない。いずれにしても、自動車のプレスの話を例にしたところで、「転写するための設計情報を創造することが開発の仕事」と言われてもやはりピンとこない。
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