次々世代のトランジスタを狙う非シリコン材料(3)〜III-V族半導体の「新たなる希望」:福田昭のデバイス通信(35)(3/3 ページ)
前回は、ゲルマニウム(Ge)をチャンネル材料とするMOSFETの研究開発の歴史と現状を紹介した。今回はもう1つの材料であるインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)である。InGaAsの歴史と背景にあるIII-V族化合物半導体とともに、研究開発の状況を解説する。
InGaAsの基礎知識とデバイス応用
インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)に話題を戻そう。InGaAsはIII族とV族の元素で構成されるインジウム・ヒ素(InAs)と、ガリウム・ヒ素(GaAs)を混合した結晶(混晶)である。ちなみに元素が3種類あるので、このような材料を「3元系混晶」と呼ぶ。InGaAsの性質は、InAsとGaAsの中間である。Inの組成比が多くなるとInAs寄りになり、Gaの組成比が多くなるとGaAs寄りになる。Inの組成比をx、Gaの組成比を(1-x)と通常は表記する。この表記方法に準ずると、InGaAsはInxGa(1-x)Asと表現される。
InAsとGaAsはともに、電子の移動度が高いという特徴を備える。特にInAsの電子移動度は極端に高い。このためInGaAsも、電子の移動度が高い。そしてInの組成比xが増加すると、電子移動度が高くなる。特にxが0.53の組成は格子定数がInPと同じであるため、InPウェハーを基板に使って良質な結晶を基板上に直接成長できるという特徴を備える。
InGaAsには電子デバイス(高速・高周波デバイス)、発光デバイス、受光デバイスといった応用の可能性が期待されてきた。しかし現在に至るまで、主たる応用は赤外線の受光素子にとどまっている。
次々世代MOSFETのチャンネル材料で脚光
電子デバイス応用があまり進まない中で、最近になって急激に脚光を浴び始めたのがMOSFETのチャンネル材料である。高い電子移動度を生かせる、nチャンネル型MOSFETの研究開発が活発になってきた。
最近のInGaAsトランジスタ(FET)に関する研究発表には、InPを基板とするFETとSiを基板とするFETがある。InP基板を使ったFETでは5500cm2/Vsというきわめて高い電子移動度が得られているほか、Si基板を使ったFETでも1000cm2/Vsとかなり高い電子移動度を得ている。Si MOSFETの約2倍の移動度に相当する。
Si基板のInGaAs MOS FETは、研究開発の初期段階にある。性能を改善する余地は大きい。研究開発の今後の進展に、期待がかかる。
(次回に続く)
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