次々世代のトランジスタを狙う非シリコン材料(4)〜CMOSの実現手法と試作例:福田昭のデバイス通信(36)(3/3 ページ)
本シリーズは、次々世代のMOSFETで非シリコン材料がチャンネル材料の候補になっていることを説明してきた。最終回は、本シリーズのまとめであるCMOSデバイスの実現手法と試作例を紹介する。従来と同様のCMOSデバイスを非シリコン材料で実現する手法は2つある。
Si基板からInGaAs層を横方向にエピタキシャル成長
SiウエハーとInPウエハーを貼り合わせる手法には、高価なInPウエハーを使用するので製造コストが上昇するという弱点がある。できれば、Siウエハーだけでn型InGaAs FETとp型Ge FET(あるいはp型SiGe FET)のCMOSデバイスを製造することが望ましい。
ここで課題となるのは、Siウエハーに高品質のInGaAs層を形成することである。Si表面に結晶成長したのでは、格子不整合によって欠陥だらけのInGaAs層ができてしまう。また絶縁層(酸化膜)表面に成膜したのでは、良好な品質のInGaAs層を得づらい。
このような問題を解決する手法をIBMらの共同研究グループが開発し、2015年6月に国際学会VLSIシンポジウムで発表した。Siウエハー(Si基板)上に形成した絶縁層の「型(かた)」を埋めるように高品質のInGaAs層を横方向エピタキシャル成長させた。このエピタキシャル層を利用して、n型InGaAs MOSFETを試作してみせた。
試作したInGaAs MOSFETはトランジスタとして動作した。オン電流とオフ電流の比率は10の4乗で、まだ改良の余地があるものの、Si基板から直接成長させたInGaAs層としては非常に優れた値だと言える。トランジスタの性能指標である相互コンダクタンス(Gm)の最大値(ピーク値)は600μS/μm(ゲート長100nm)とこれも、かなり良好な値を得た。
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