脳情報から「怖い」「カワイイ」の解読が可能に:TVCMを中心とした動画広告の評価に活用へ
NICT、NTTデータ、NTTデータ経営研究所、テムズは共同で、動画広告の評価や効果予測などに、脳の情報解読技術が応用可能であることを実証実験により確認したと発表した。
NICTは2015年8月、NTTデータ、NTTデータ経営研究所、テムズと共同で、テレビコマーシャル(以下、TVCM)を中心とした動画広告の評価や効果予測などに、脳の情報解読技術が応用可能であることを、実証実験で確認したと発表した。従来の手法に加えて、動画広告やコンテンツに対して「脳」という新しい観点で評価を行うことが可能になる。
fMRIを用いて脳活動データを取得
今回の実証実験は2015年3月、TVCM視聴時の男女4人の脳活動データをfMRI(機能的核磁気共鳴画像法:脳の局所的な血流変化を捉える測定方法)を用いて取得した。1人当たり3時間程度に及ぶ脳活動データとクリエイティブの評価、メタデータなどを組み合わせてデコーディングモデル(脳活動から認知内容などを推定する数理モデル)を作成し、TVCMの印象の解読を行った。
実験の結果、脳活動のパターンからデコーディングモデルを構築したことで、女性や子どもといった「認知している対象」、食べるや飲むといった「認知している動き」、怖いやかわいいといった「感じている印象」について解読が可能になったという。
少数のサンプルでも消費者の行動予測を
これまでの動画を用いた広告のクリエイティブは、静止画を見せて主観で解答するといった方法で評価されていた。しかし、静止画を通した解答では、実態に即した精度で評価するのは難しい。記述や口頭によるアンケートも、回答者の意識に依存した評価となり、精度の向上に限界がある。
今回の実証実験で、視聴者の脳の反応データを加えたことによって、記述や口述による従来の手法より、少ない労力かつ正確な効果予測や評価が行えるようになったという。つまり、少数のサンプルでも消費者の行動を予測できるようになるのだ。
NTTデータグループは2015年9月以降、今回の実証実験の成果を基に、実際のマーケティングソリューションとしてトライアルバージョンの提供を開始するという。トライアルバージョンは、脳活動情報のビッグデータ、実社会のメタデータ(認知率や到達効率など)、人工知能による自然言語処理技術、脳情報解読技術を組みあわせたサービスだ。
今後は評価に限らず、広告素材を改善するための具体的なクリエイティブ要素の提案や、出稿前の絵コンテによる効果予測や評価の技術開発を進めていくとしている。
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