ヒールで踏まれても壊れないトランジスタ:柔らかくて、洗濯もOK!
ヒールで踏んでも壊れない柔軟なトランジスタを開発したと産業総合研究所が発表した。今後、衣服同様、身に着けてもストレスを与えないセンサーなどに応用する。
約2.5MPaの圧力にも耐えた!
産業技術総合研究所(産総研)は2015年8月12日、単層カーボンナノチューブ(CNT)やゴムなど柔らかい素材だけで構成したトランジスタを開発したと発表した。衣類のような柔軟性を備えることで、伸縮、曲げ、ねじり、圧縮、衝撃といった負荷を与えても特性を維持し、壊れないという。
開発したトランジスタは、ソース、ドレイン、ゲートに用いる電極に導電性単層CNTゴム複合材料を、チャネルに半導体的性質の単層CNT、絶縁層にイオンゲル、基板にシリコンゴムを用いたサイドゲート型トランジスタだ。
いずれの素材も衣服に用いられる素材と似た構成元素からなる素材で柔軟性に富む。その結果、トランジスタ全体として、ポリエステルやフェルト、レーヨンといった素材を用いた布とほぼ同等の柔軟性を実現した。
今回開発したトランジスタの構成材料と各種材料のヤング率と許容弾性ひずみ量。ヤング率は材料に加わる力と変形との比で柔らかさの指標となり、許容弾性ひずみ量は材料が壊れずに許容できるひずみの大きさで丈夫さの指標となる 出典:産業技術総合研究所
トランジスタとしての性能は、オン電流−50μA、オンオフ比は104で、「既に開発されているフレキシブルトランジスタと同等の性能」(産総研)という。
布同様の柔軟性を備えたことで、ねじり、圧縮といった負荷を掛けてもトランジスタは一体的に変形し、トランジスタ特性にもほとんど影響が生じないという。産総研では、「日常生活で起こりうる負荷の中でも厳しいと考えられる」とするハイヒールのヒール部分で踏むという負荷をトランジスタに与えて特性の変化を検証。約2.5MPaというヒールの圧力を与えてもほとんど特性に変化がみられないことを確認した。
開発したトランジスタは、衣服に貼り付けて、その柔軟性から着用者にストレスを与えることもなく、洗濯することも可能だとする。
産総研は「将来的には、生体センシングシステムや介護ロボットの皮膚など、医療用ヒューマンモニタリングエレクトロニクスへの応用が期待される」とし、今後センサーなどトランジスタ以外にも柔軟な電子デバイスを開発する方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 次々世代のトランジスタを狙う非シリコン材料(4)〜CMOSの実現手法と試作例
本シリーズは、次々世代のMOSFETで非シリコン材料がチャンネル材料の候補になっていることを説明してきた。最終回は、本シリーズのまとめであるCMOSデバイスの実現手法と試作例を紹介する。従来と同様のCMOSデバイスを非シリコン材料で実現する手法は2つある。 - 開発メーカーに聞きたい、なぜ“ウェアラブル”なのか?
続々と市場に投入されるウェアラブル機器。大手電機メーカーも相次いでウェアラブル製品を発表している。しかし、ウェアラブル、つまり“身に着けられる”ことが「ユーザーにとって一番の利点」だと本当に考えて製品を開発しているメーカーは、どれだけあるのだろうか。 - 体の熱や動きで駆動するウェアラブル医療モニター、米研究チームが開発に本腰
米国の研究チームは、環境発電(エネルギーハーベスト)を利用するウェアラブル医療モニターの開発を進めている。体温や身体の動きを利用してフレキシブルセンサーを駆動し、生体信号をモニタリングすることを目指すという。 - 1秒間で再充電、フレキシブルなアルミニウム電池
米スタンフォード大学が、1秒間で再充電できる、フレキシブルなアルミニウム電池を試作した。正極(アノード)にアルミニウム箔、負極(カソード)にグラファイトフォーム(黒鉛泡)、電解液に液体塩を用いている。7500回充放電しても電池容量が著しく低下することはないという。