製品アーキテクチャの基礎(後編):勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(7)(1/3 ページ)
今回は、「オープン型」と「クローズド型」という2つの製品アーキテクチャを紹介したい。分かりやすく言うなら、前者はいわゆる“業界標準”で、後者は自社のみでの囲い込みである。とりわけ「オープン型」である業界標準について考察することは面白い。本稿では、記憶に新しい、トヨタ自動車のFCV(燃料電池自動車)無償特許公開と絡めて解説しよう。
これまでに、「価値」について、“企業価値”“付加価値”“意味的価値”など述べてきた。また、「モノづくり戦略論・産業論」の観点からは、“真似(まね)されない技術”を生み出す「組織能力」と「製品アーキテクチャ」の話をしてきた。
“真似されない技術”と言ったところで、知財(特許や実用新案)や論文、技術報告書などで公開されれば、その時点で公のものとなる。したがって、世の中に出る製品は全て真似されるものであるという前提で、むしろ、“真似されても困らない技術”をどのように企業の開発部門として培うべきかを考えた方がより現実的である。
今回(第7回)ならびに次回以降の第8回・第9回と合わせて、“真似されても困らない技術”について考えていく。製品開発に携わる者であれば、「競合が真似できるものなら真似してみろ!」というプライドは少なからずあるだろうし、「競合の技術を真似てみたが、オリジナルと同等の性能は、とてもじゃないけど出せない」とも言わせたいだろう。市場やお客様から、「さすがA社の製品だ」と言われることもエンジニア冥利に尽きるかなと思っている。
今回は、前回(第6回)で述べた「製品アーキテクチャの基礎」の後編である。
実際の製品においては、綺麗にアーキテクチャが分離されないこともしばしばある。だが、アーキテクチャが製品の思想そのものと考えれば、思想を共有している開発メンバーほど強いものはない。
「オープン型」「クローズド型」アーキテクチャとは
製品アーキテクチャは、モジュラー型の場合は既に誰かが設計した部品を寄せ集めて製品が完成するとも言えなくもない。カッコよく言えば、「再利用」であり、モジュラー設計にするということは「資産化」そのものでもある。
製品アーキテクチャは、さらに2つのタイプ(オープン型、クローズド型)に分けることができる。前回述べた「モジュラー型」と「インテグラル型」と対比して示すと、図1のとおりとなる。
「オープン型」とは、異なる会社が別々に基本設計した“業界標準部品”を寄せ集めて製品にする場合。「クローズド型」とは、自社内で基本設計を行った“社内共通部品”ばかりを寄せ集めて製品にする場合をいう。
オープン型は、部品のインタフェースは業界標準として公開されていることがほとんどだ。一方で、クローズド型は、企業独自のモジュール間インタフェースを有している。わかりやすく言えば、「オープン型」は業界標準そのもので、「クローズド型」は自社のみで囲い込んでいる。
オープン型の業界標準インタフェースの身近な例では、PCと周辺機器とのインタフェース(USB、PCI Express、IEEE1394など)、PC内部のHDDなどのインタフェース(SATAなど)、薄型TVとハイビジョンレコーダとのインタフェース(HDMI)が挙げられる。PCやTVのこれらインタフェースに共通していることは“高速シリアル通信”である*)。
*)参照記事=高速シリアル・インターフェイス入門(1):なぜいま、高速シリアル・インターフェイスなのか
なお、インタフェースにおいては、元々はクローズド型であったものから、オープン型に移行したものがある。いわゆるリーディングカンパニーが自社製品や製品群の拡張のために開発したものが、事実上の業界標準になったものだ。例えば、計測器とコンピュータのインタフェースのために開発したGPIB(General Purpose Interface Bus)がある。元は、米国HP(分社化してAgilent Technologiesとなった部門)の社内規格であったHP-IB(Hewlett-Packard Interface Bus)が、IEEE488として標準化されたものである。このGPIBは8ビットデータを常にハンドシェイクする“パラレル通信”である。これにより、異なるメーカーの計測器同士であっても、コンピュータにより制御可能としている。
余談だが、ここ15年ほどは徐々にGPIBからLANやUSBが取って代わることも多くなってきている。中には、GPIBは死んだかのように論じる記事もある。Bluetoothや無線LANを備えたものもあるが、GPIBコネクタを装備し、米国National Instruments(NI)の「LabVIEW」ドライバがいまだに計測器メーカーから多く提供されていたり、GPIBの歴史や信頼性からすれば、まだまだ廃れないように思える記事もあったりする*)。筆者自身が元計測器屋であるので興味津々だ。
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