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製品アーキテクチャの基礎(後編)勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(7)(2/3 ページ)

今回は、「オープン型」と「クローズド型」という2つの製品アーキテクチャを紹介したい。分かりやすく言うなら、前者はいわゆる“業界標準”で、後者は自社のみでの囲い込みである。とりわけ「オープン型」である業界標準について考察することは面白い。本稿では、記憶に新しい、トヨタ自動車のFCV(燃料電池自動車)無償特許公開と絡めて解説しよう。

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トヨタのFCV特許無償公開、狙いは標準化戦略

 少々、脱線してしまったが、本題に戻そう。

 2015年1月にトヨタ自動車がFCV(燃料電池自動車)の特許数千件を、無償公開するという発表があった。皆さんの記憶にも新しいことかと思う(参考記事)。一般に特許のライセンス使用料で儲けた方がいいに決まっていると思う人もいるだろうが、トヨタの思惑はこの記事に書かれているように、「標準化戦略」である。新しい技術に関して、早い段階で研究開発等のノウハウを公開し、世の中にFCVの普及を推進し(現時点では特に価格以上に水素スタンド・ステーションのインフラ普及がネック)、標準規格とすることである。要は賛同する仲間企業がたくさんいれば、それだけ、標準規格になりやすいわけだ。先のHP-IBは、後のコンピュータと計測器の標準規格であるGPIB(IEEE488)へとなったが、この理由も標準化戦略とみることができる。

なぜ、DVDプレーヤーはすぐに追い付かれたのか

 標準化戦略は、ともすれば、メーカーにとって女神にも悪魔にもなり得る。特に、異なる方式や原理による製品が世の中に登場した際にはそれが顕著だ。歴史が物語っている。

 第2回の図2において、1970年代に登場したビデオデッキでは、ビクターのVHS方式とソニーのベータ方式が市場を完全に二分したが、一部放送業界を除き、家庭向けはVHS方式が生き残った。この時代の両社の製品は、アーキテクチャで言えば、どちらもインテグラル型であり、かつ内部はアナログである。模倣することは極めて難しい。

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第2回 図2 デジタル家電(DVDレコーダーの例)に見られる敗北の歴史(クリックで拡大)

 後に登場するDVDプレーヤーは、東芝が世界に先駆けて高度な技術をもって開発し、市場に投入し、世の中に大きく貢献した。一方で、同社はDVDの規格を公開した結果、中国・韓国・台湾などのメーカーが即座に同等製品を低価格で開発し、製品登場時にはシェア100%であったにもかかわらず、わずか10年足らずで20%以下にまで落ち込んでいる。だが東芝がとった戦略は「標準化戦略」に他ならず、実際にDVD規格は今や世界標準になっている。

 同じ「標準化戦略」にもかかわらず、何が明暗を分けたのか。これは、DVDプレーヤーが、VHSやベータのビデオデッキとは異なり、モジュラー型で内部がデジタルであったことが一因だ。さらに、今回述べたように、最初からオープン型に向いてしまっていたことだ。先のGPIBのように、HP-IBとしてHP社で長く培われてきた技術でもない。

 消費者・購買層からすれば、競合企業が同等製品を出すことによって、安く製品を手にすることができるメリットは大きく、この意味ではDVDの規格を早期に公開した東芝の貢献は業界にとっては非常に大きなものだが、自社への利益にはならなかった(価値創造はできても価値獲得ができなかった典型例)のである。

 あまり書きたくはないが、「標準化は利権ビジネス」である。

 標準化の“仲間”に入っていない企業からは、仲間への参画を促し参画料がとれるし、そもそも、標準規格の認定そのものもお金が動く世界だ。「認定」という、標準化団体から“お墨付き”をもらうこと自体にお金がかかるのである。これ以上は言わなくとも、賢明な読者諸氏ならわかるだろう。

 さて、トヨタのFCVはこの先どうなるだろうか……。FCVの特許公開は、明らかに標準化を狙ったものであるが、業界標準にまで成長するか否かは不明である。自動車の場合、ハイブリッド車やEV(電気自動車)など、電気部品を搭載したものはその制御方法も含めて、単純に、インテグラル型やモジュラー型とは区別しにくくなってきている(従来のレシプロエンジンは間違いなくインテグラル型)。

 また、車載向け組み込みソフトウェアは、欧州、特に自動車大国であるドイツを中心に、自動車メーカーやティア1サプライヤ企業を中心としたコンソーシアムであるAUTOSAR(Automotive Open System Architecture)が、車載共通基盤ソフトウェア開発を担い、標準化を推進している(参考記事)。もちろん、日本企業もAUTOSARには参画している。

 FCVに絡めて特許を公開したトヨタの標準化戦略がどのように進むのかは、今後も注目である。

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