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製品アーキテクチャの基礎(後編)勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(7)(3/3 ページ)

今回は、「オープン型」と「クローズド型」という2つの製品アーキテクチャを紹介したい。分かりやすく言うなら、前者はいわゆる“業界標準”で、後者は自社のみでの囲い込みである。とりわけ「オープン型」である業界標準について考察することは面白い。本稿では、記憶に新しい、トヨタ自動車のFCV(燃料電池自動車)無償特許公開と絡めて解説しよう。

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製品アーキテクチャの基本タイプ

 前述したオープン型とクローズド型を、インテグラル型とモジュラー型と組み合わせて示したものが図2である。


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図2 製品アーキテクチャの基本タイプ(クリックで拡大)

 左上の領域が、「クローズド・インテグラル型」である。この領域の製品は、“最適設計された専用部品”によって構成される。日本企業が得意とする組込みソフトウェアや、一品一様のソフトウェアもこの領域に位置する。

 この中で、1つ注目すべきは“軽薄短小家電”である。これには賛否両論ある。

 “軽薄短小”とはその名の通り、「軽く」「薄く」「短く」「小さく」という意味だ。その反対は“重厚長大”であり、「重く」「厚く」「長く」「大きく」という意味だ。昭和50年代の環境白書においては、家電製品の主力の座はカラーテレビからビデオデッキとなり、軽薄短小を追及することで生産効率を高めてきた。

 ここ数年のトレンドでは、2012年のダイヤモンドオンラインでは、「軽薄短小を良し」としている。組立て型産業分野において、特に自動車や高級デジカメの分野では、日本企業が高いシェアを維持し、優位性を保っている。部品点数も多く、細かい部品を精密に組み立てる技術、限りあるスペースに部品を詰め込む工程には、日本のモノづくりの強みを十分に発揮できるものと記されている。要は“軽薄短小”は、特に家電製品においては小型実装技術そのものであり、日本企業の生き残る道であるということだ。

 その一方で、2015年1月の日本経済新聞においては、軽薄短小であることは市場戦略の足かせとなると記している。33年前のまさしく「環境白書」が出た時代と2015年を対比し「もはや軽薄短小ではない」と、先のダイヤモンドオンラインとは真逆のことを言っている。

 これをどう見るかだが、筆者はどちらも正しいと思う。1つには、軽薄短小と重厚長大のいずれかが時代が要求されるサイクルが早くなったからだと見ている。もう1つは、日本経済新聞の記事は、重厚長大の対象市場を新興国と記しているので、同じ物差しで日本市場との比較はできないからだ。むしろ、軽薄短小家電が「クローズド・インテグラル型」に位置するのではなく、徐々に「オープン・モジュラー型」にシフトしていると考えた方が素直だ。これまでに述べてきた「デジタル家電」の特性を頭の隅に置きつつ、あっという間に中国・韓国勢に真似されてしまう状況を鑑みれば、より納得度が高いからである。

 これと対角に位置する領域が、「オープン・モジュラー型」である。基本的にオープン型はモジュラー型にしかない。この領域の製品は、“汎用製品の寄せ集め”である。例えば、PCのようにA社のPCとB社のプリンタを接続しても、インタフェースやプロトコルが業界標準として定められているので、問題なく使用できる。一般にこの領域は、価格決定権が自社だけにあるものではなく、低コストで生産できる体制が求められることは言うまでもない。

 最後、右上の領域は、「クローズド・モジュラー型」である。この領域の製品は、“社内共通部品の寄せ集め”とも言え、他社との互換性はない。市場は広く開かれているものではなく、限定された市場における製品が該当する。

 さて、次回以降は冒頭で予告した通り、“真似されても困らない技術”を念頭に、製品アーキテクチャによる差別化や競争力強化、競争優位性の出し方、第4回で述べた意味的価値との組み合わせ、そして、今回述べた標準化まで、順を追ってお伝えしていく。

⇒「勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ」バックナンバーはこちら


Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。


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