その時、警察は何をしてくれるのか?:実録! ネット詐欺(後編)(1/5 ページ)
インターネット利用詐欺との戦いも、いよいよ最終フェーズを迎えました。「警察に相談する」です。ネット詐欺に遭った場合、果たして警察はどう動いてくれるのでしょうか。実際のところ、警察は“当てになる”のでしょうか。
数十年にわたりネットワーク業界・技術に関わってきた私が、ついにインターネット利用詐欺の餌食となってしまいました。このシリーズでは、その一部始終をお伝えしたいと思います。前編はこちら、中編はこちら
順番的に言えば、銀行よりも何よりも真っ先に行かなければならなかったのが警察だと思うのですが、結果として、最後に、私の自宅付近を管轄している警察署に出向くことになりました。
2015年8月7日 土曜日の午後、警察署の受付で「ネット詐欺の被害者です。相談に参上しました」と申し上げたところ、何だか受付の人の方がうろたえていたようで、少し申し訳ない気持ちになりました。
「刑事課」と書かれた大きな木版の横を通過して、通されたのは、灰色のコンクリートの壁とパイプ椅子からなる部屋 ―― ここって、尋問室っぽいなぁ―― と思いながら、担当者を待ちました。
これまでの経緯(消費者センター、銀行)との対応から、この事件を最初から説明するのが面倒だと考えていた私は、サマリー(付録参照)を作って警察署に持っていきました。
対応したのは、制服を着た、私と同年齢くらいの男性でした。
そして、開口一番、
「私たちは、犯人を捕まえることはしますが、お金を取り戻すことはできません」
と言われました。
この人も、被害者に泣きつかれて困ったという経験を持っているんだろうなーと、思いました。
幸い、私は、法学ゼミに通っていたこともあって、刑法、刑事訴訟法、民法の違いをひと通り理解しておりましたので、
江端:「ええ、『民事不介入の原則』は、よく存じております。本日こちらに伺ったのは、被害届けを提出するためです」
こうして、今回の事件の最終フェーズ「警察署編」の幕が切って落とされたのです。
私が、持ってきたサマリーを示しながら概況の説明を終えると、その男性は「ふむ、大体状況は分かりました」と言われました(この男性が、どのような身分の方なのかは不明でしたので、以下、「警官」の略称で呼ばせていただくことにします)。
江端:「私自身、正直、“被害届け”を出せる状況にあるのか否か、出すことに意義があるのかどうかも分かりません。お手数ですが、そこからご指導いただけると大変助かるのですが」
警官:「お話によると、相手の名前も住所も特定できないのですよね」
江端:「ええ、全く分かりません。仮に分かったとしてもWebサイトでの名前や住所は、大抵の場合、デタラメですけどね。というか、ネット詐欺って、そもそも、そういうものだと思いますが」
警官:「ネット詐欺の場合、一番難しいのが、『故意・過失』の立証なのです」
江端:「と、言いますと?」
男性:「江端さんは、『物品が届かない』『連絡がつかない』ということで、詐欺であると考えられていると思いますが、例えば『輸送上の手違い』『発送の遅延』などの相手方の事故の可能性も考えられますよね」
江端:「しかし、そのような性善説に立てば、どのようなことだって『事故』になってしまうのではないですか?」
警官:「ですから、一般的には、その業者に対して『内容証明郵便』による商品配送の催促を実施します。その郵便に対して応答がない、とか、不在で戻ってきた場合、総合的に『詐欺の可能性がある』との客観性が得られることになるのです。その後、その郵便の宛先に居住する人物を特定して、被害届けを提出する、という段取りになることが多いです」
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