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製品アーキテクチャによる差別化と競争優位性勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(8)(2/4 ページ)

今回は製品アーキテクチャの概念的な部分から、差別化や価値をいかに設計に組み込むかについてお伝えしたい。皆さんの企業と顧客の製品がどのタイプのアーキテクチャを持つかが、自社を優位に立たせる観点で重要だ。デジタル家電や自動車業界の例から、電機業界が進むべき方向を考察する。

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アーキテクチャの違いでとるべき戦略

 最終製品(外)は「顧客製品のアーキテクチャ」、製品を構成するモジュール(中)は「自社製品のアーキテクチャ」に他ならない。

 皆さんの企業の製品(自社製品)と顧客製品のアーキテクチャを考えながら、とるべき戦略を考えてみよう。図2をご覧いただきたい。この図を「アーキテクチャ・ポジショニング」とも呼ぶ。自社や顧客の製品アーキテクチャにより、戦略の位置付けが変わるからだ。順番に4つを見ていこう。


図2:アーキテクチャ・ポジショニング (クリックで拡大)

(a)中インテグラル・外インテグラル

 自社製品・顧客製品のいずれもインテグラル型の場合だ。

 この領域の製品開発には、先に自動車メーカーを例に挙げたように、大きな設備投資が必要で、技術力・競争力を求められる割には収益性が低い傾向にある。競合企業数もさほど多くない場合がほとんどで、業界1位の企業(リードユーザー)のフォロワーとしてついていくことで、自社の技術力は向上し、競争力も維持ないしは向上が見込まれる。現実的には、それなりの企業体力を備えた大企業でないと、この製品構成を採ることは難しい。

(b)中インテグラル・外モジュラー

 自社製品がインテグラル型、顧客製品がモジュラー型の場合だ。

 先に、自転車のギアやCPUなどを例に挙げたように、製品の外面を標準的なモジュラー構成にする(寸法、電気的特性など)ことで、顧客は部品を購入することで、すぐに製品として機能する顧客製品へと転化できる。高級な自転車も、大手スーパーで扱っているママチャリも同じメーカー(シマノなど)であり、PCのマザーボードメーカーが異なっても、CPUの電気的特性やソケットなどの物理的寸法を満たせば、交換そのものも用意だ。

 だからと言って、内部構造はインテグラル型なので、どこの企業もたやすく真似できるものではない。図2中では、「収益性の高いケース(筐体)を持つ」と示しているが、この意味は、製品の中身そのものは複雑であっても、「取っ換え引っ換えがたやすく、小さい部品の割に値段がそこそこする」ということである。

 購入者の視点から見れば、自転車ギアのメカニズムやCPU内部の動作など分からなくとも、外側だけモジュラー設計にして製品供給することで、量産効果が高く、価格決定に際しても優位に立つことができる。その結果、高い収益性が得られる。

(c)中モジュラー・外インテグラル

 自社製品がモジュラー型、顧客製品がインテグラル型の場合だ。この場合は、自社内における部品やモジュールの共通化(クローズド・モジュラー)を徹底的に進める。共通部品の再利用、組み合わせにより、カスタム対応など顧客からの要望に応える。

 ここで少し考えてみたいのだが、先にこのタイプはジェットエンジンのGE、カスタムLSIのロームを例に挙げたが、皆さんは、「あれ?」と思わなかっただろうか? 「ジェットエンジンやカスタムLSIがモジュラーなわけないでしょ…」と。ジェットエンジンやカスタムLSIを作れる企業は世界でもそう多くはない。特にジェットエンジンはGE以外にも企業が限られ、国内においてはタービンなども手掛ける数社(三菱重工、川崎重工、IHIなど)しかない。

 ジェットエンジンの1つ1つの部品で見れば、それぞれは擦り合わせが要求されるインテグラル型だ。カスタムLSIも同様だ。しかし、航空機メーカーがエンジンの部品を1つ1つを購入するわけではない。エンジンという1つの製品形態になったモノを購入する。エンジンメーカーは部品が複数個からなる部品が、自社内でしか通用しないインタフェースを持つことで1つの機能部品となる。これら機能部品(複数個の部品が擦り合わされたインテグラル型)が、社内の共通部品としてストックされている。

 エンジンメーカーは、航空機メーカーからの要望(搭載される飛行機の種類など)で1台1台、インタフェースが異なるものを製造することで、カスタム対応を行っている。旅客機では、エアバスとボーイングと航空機メーカーが異なっても、同じ型式のGEのジェットエンジンを搭載し、搭載する旅客機に応じてエンジンそのもののインタフェースが異なり、細かくチューニングを施すインテグラル型である。

 再度繰り返すと、エンジンそのものが大きな部品であり、最初の部品1個レベルではインテグラル型から開始する。ジェットエンジンの開発費は莫大なもので、一般に数十年の製品寿命を持つため、この部品が複数個からなる機能部品を共通部品とすることで、GE社内的にはモジュラー型製品として位置付けされる。あとは、航空機メーカーからのオーダーに従って、これら共通部品であるモジュラー型製品を組み合わせて、最終的にインテグラル型の顧客製品として提供をする。

 カスタムLSIも同じで、最初の部品1個レベルではインテグラル型であるが、部品を複数個組み合わせ、社内で共通部品とすることで内部構造は自社からすればモジュラー型となる。あとは、顧客からの要望に応じて、外部とのインタフェース(信号線の割り当てなど)をカスタマイズしている。

 少しややこしく説明しにくい部分もあるが、おおよそのイメージが伝わっただろうか?

 手っ取り早く言えば、中がモジュラー型であるということは、ASICのマクロやモジュール、ソフトウェアのライブラリ設計にも見ることができるように、最初はマクロ、モジュール、ライブラリを作るのには手間がかかる。しかし、いったん、これらを社内資産として標準化し、かつ、共通ライブラリのように登録をしておけば、自社内においては再利用がしやすく、コスト削減にもつながる。顧客からの要望に応じて、このライブラリの組み合わせを変化させることで、対応することで短納期にもつながるのである。

(d)中モジュラー・外モジュラー

 自社製品・顧客製品のいずれもモジュラー型の場合だ。

 汎用品全般に見られるもので、前述したように、DRAMや鉄鋼などが該当する。一番の特徴は、設備投資などが莫大にかかる割に、得られる利益が少ない。従って、この領域にある製品戦略は、何と言っても、量産によるコスト削減である。規模の経済性が働くので、多品種少量生産は向かない。

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