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製品アーキテクチャによる差別化と競争優位性勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(8)(3/4 ページ)

今回は製品アーキテクチャの概念的な部分から、差別化や価値をいかに設計に組み込むかについてお伝えしたい。皆さんの企業と顧客の製品がどのタイプのアーキテクチャを持つかが、自社を優位に立たせる観点で重要だ。デジタル家電や自動車業界の例から、電機業界が進むべき方向を考察する。

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真似されない工夫
(製品アーキテクチャと意味的価値)

 今回、冒頭述べたように“読むことがしんどい内容”にお付き合いいただき、まずは感謝である。

 次に考えてみたいことは、皆さんの企業と顧客の製品がどのタイプのアーキテクチャを持つかである。ともすれば、これは、自社製品を他社に真似されないための防御策ともいえるし、真似されたところで同等の性能が出せないため、結果、自社を優位に立たせるという観点からも重要である。

 これまで過去の記事において、イノベーションと言われた「日本企業初」にもかかわらず、わずか数年で衰退してしまった製品(第1回参照)を例に、「製品アーキテクチャ(第6回第7回参照」 「デジタルとアナログ(第2回参照)」 「価値(第3回第4回参照)」 「組織能力(第5回参照)」を整理してみたい。


図3:製品アーキテクチャと価値 (クリックで拡大)

 多くの製品においてその製品アーキテクチャをインテグラル型のまま維持しておくことは困難な場合が多い。

 全く新しい製品分野が生まれた場合には、通常、最初はインテグラル型で始まるが、その後は、モジュール化の方向へ進んでいく傾向が強い。モジュール化はコスト低下や生産性向上にとって大きなメリットがあり、顧客ニーズからも、低コストでデバイスの多様な組み合わせができることや、標準化による互換性のメリットがある。インテグラル型を維持できるのは、それらのメリットよりも擦り合わせによって作り出す価値が顧客にとって大きい場合だけである。

 それが当てはまるあまり多くない例の1つには自動車がある。

 自動車は擦り合わせでないと実現できない。「走る・曲がる・止まる」という単純な機能以上の価値を顧客の多くが高く評価して、何十万円の単位でその価値に対して対価を支払うのである。その価値は例えば、デザイン、質感、安心感、乗り心地、ステイタス性など感覚的に評価される部分が多い。このように、自動車はインテグラル型を適用するコスト以上の高い顧客価値を実現できる可能性が高い。

 その一方で、デジタル家電では、いくら擦り合わせによって価値を上げようと思っても、顧客がそれに対する対価を支払ってくれることが少なく、第2回で述べた「顧客価値の頭打ち」が起きやすい。これは、デジタル家電は、モジュール化が進み市場化することで、製品開発・製造が容易になることと、顧客ニーズが頭打ちをしやすいこと、つまり、製品(供給側)と顧客(需要側)の両面から、参入企業の増加と価格低下をもたらすからである。

 もっとも、自動車においてもエンジン性能などはかなり昔から顧客ニーズは頭打ちしているが、ニーズの中身が複雑であれば、モジュールの組み合わせでは実現できない部分においては、企業間競争が活発になる。その結果、顧客への対応を差別化できれば付加価値を生み出し、顧客価値を獲得することを可能とする。具体的には、人や物を運搬する機能とは直接関係のない、微妙な操縦性やエンジンサウンドなどである。または、デザインの芸術性や、実質機能とは関係のない品質感などである。

 さらに、乗用車であれば、ステイタス性やカッコ良さを他人に表現できる価値である。これらのこだわり部分の価値は、顧客の中で完結する価値であり、同時に他人へ自分自身を表現する価値でもある。このように、乗用車は意味的価値の高い製品であり、なかなかコモディティ化が進まないことが分かる。

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