2020年普及を目指す酸化ガリウムの今後に迫る:直径6インチ以上のエピウエハー実現へ
情報通信研究機構やタムラ製作所などの研究チームは2015年10月21日、次世代パワーデバイス材料として有望なガリウムエピウエハーの開発に成功したと発表した。同成果を事業化するノベルクリスタルテクノロジーの社長である倉又朗人氏に今後の展開について話を聞いた。
情報通信研究機構、東京農工大学、タムラ製作所らの研究チームは2015年10月21日、次世代パワーデバイス材料として有望な酸化ガリウム(Ga2O3)エピウエハーの開発に成功したと発表した*)。タムラ製作所と研究者などの個人投資家が共同出資して設立したノベルクリスタルテクノロジーで同成果を事業化するとしている。
*)関連記事:酸化ガリウムエピウエハー開発成功、事業化へ
2015年10月22〜23日に開催された「NICT オープンハウス」で、ノベルクリスタルテクノロジー社長の倉又朗人氏にその特長や今後の展開について話を聞いた。
6000Vの高い耐圧
酸化ガリウムの最大の特長は、バンドギャップが大きく、6000Vという高い耐圧を有することである。次世代パワーデバイスとして注目される炭化ケイ素(シリコンカーバイト、SiC)は約3000V、窒化ガリウム(ガリウムナイトライド、GaN)は約600Vの耐圧である。そのため、送電系統システムや電車の電源などに応用が可能だ。また、結晶の成長速度がSiCやGaNが1mm/h以下であるのに対して、Ga2O3は15〜40mm/hと高速に結晶を育成することができるため、低コストで製造できるという。
「GaNは、耐圧は低いが高周波での性能がよく、インバータを小型化するに適している。SiCは、既存のデバイスの中で最も耐圧が高く、実用化に近いフェーズで私たちより技術の成熟度では2歩、3歩先を進んでいる。Ga2O3は、高い耐圧と低コストで製造できることを強みにこれから展開していきたい」(倉又氏)
2020年には世の中に普及を
倉又氏は今後の課題として、「高性能な素子をしっかり製造できるかを、今後証明していく必要がある」と語る。そのために、電機メーカーの研究開発用として、2015年10月から10×15mmの酸化ガリウムエピウエハーの製造/販売を開始。直径6インチ以上のエピウエハーの実現に向けて研究開発を進め、2016年度中には2インチウエハーの試作を行う予定としている。「電機メーカーの研究開発に活用してもらうことで実用化を加速させ、2020年には世の中で一般的に普及させたい」と倉又氏は力強く語った。
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