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磁性絶縁体中の磁壁が示す金属的性質を観測磁気メモリを磁場や温度で制御する

理化学研究所(理研)の藤岡淳客員研究員らの研究グループは、走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を用いて、絶縁性の高い磁性体(磁性絶縁体)中の磁壁が金属的性質を持つことを実験により観測することに成功した。

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 理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関界面研究グループの藤岡淳客員研究員らの研究グループは2015年10月、走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を用いて、絶縁性の高い磁性体(磁性絶縁体)中の磁壁が金属的性質を持つことを実験により観測することに成功したと発表した。今回の成果は、磁場や温度で制御可能な新しい磁気メモリの実現につながるものと期待されている。

 今回の研究は、藤岡氏の他、上田健太郎研修生、創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長、米国スタンフォード大学のジーシュン シェン教授らの国際共同研究グループが行った。

 国際共同研究グループは、パイロクロア型イリジウム酸化物「ネオジウムイリジウム酸化物(Nd2Ir2O7)」を研究試料として用いるため、高圧合成法により、組成が厳密な高品質の多結晶体を作製した。この材料は絶縁性を持ち磁気的界面の伝導性の比が最も高い磁性絶縁体であるからだ。また、試料の伝導特性を観測するために、シェン教授らのグループが開発した走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を用いた。この顕微鏡は試料内の微小領域における電気伝導度を約100nmの空間分解能で可視化することができるという。今回は、研磨した試料に対して転移温度の32Kよりも十分低い4.7Kで、磁場を9Tまで加えながら磁壁の変化を観察した。


マイクロ波インピーダンス顕微鏡を用いて、試料の伝導特性を観測した (クリックで拡大) 出典:理化学研究所

 磁場をかけずに温度を下げ、その後に温度が上昇していく過程においてインピーダンスを測定した(ゼロ磁場冷却)。そうしたところ、常に磁性をもつ金属(常磁性金属)から強い反磁性をもつ絶縁体(反強磁性絶縁体)に転移する温度以下では、インピーダンスが急激に増加し、最も低い温度では三桁大きい値を示した。このときの試料の変化を走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡で観察したところ、絶縁性の高い固体中に、磁壁の金属的性質といえる細線状(幅100nm以下)の金属状態がランダムに分布しているのが観測された。

 一方、試料に9Tの磁場を加えて温度を下げ、その後に磁場をゼロに戻してから、昇温過程のインピーダンスを測定した(磁場冷却)。ゼロ磁場冷却時よりもインピーダンスの増加が大きくなり、最低温度の時は二桁以上の数値となった。このとき、顕微鏡画像では磁壁の金属的性質を示す細線を観察することができなかった。このことから、磁場によって磁区が一つに揃えられ磁壁が消失したことが分った。


試料は温度によりインピーダンスが大きく変化する(左)。走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡で観察すると、ゼロ磁場冷却では磁壁の金属的性質といえる細線状の金属状態がランダムに分布している(中央)。磁場冷却を行うと磁壁の金属的性質を示す細線がなくなった (クリックで拡大) 出典:理化学研究所

 磁壁における金属的性質の伝導特性を確認するため、微小な電極を取り付け、その間のインピーダンスについて磁壁分布を観測しながら測定した。多磁区状態から磁場を加えると、磁区が配向し磁壁が消失していくにつれて、インピーダンスが階段状に増加していくことを観測することができた。これから推測すると、磁壁一枚あたりのインピーダンスは約1kΩ/□(ohms per square)、シート伝導度は1mSであることが分かった。インピーダンスには温度依存性がほとんどなく、通常の金属とは異なる振る舞いを観測することができた。


試料に取り付けた微細電極間における抵抗の磁場依存性 (クリックで拡大) 出典:理化学研究所

 これらの結果から、磁性絶縁体内部にある100nm以下の薄い磁壁に、電気伝導性が極めて高い金属状態が存在しており、この磁壁を温度や磁場により制御可能であることが明らかとなった。

 今回実証した成果を応用すれば、磁気メモリのスイッチを多段階に調整することができるようになり、メモリの大容量化が可能となる。さらに、温度や磁場だけでなく、物理的圧力や電流による制御が可能となれば、さらなる多機能化を実現することができると共同研究チームではみている。

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