外的刺激で蛍光波長が切り替わる有機蛍光色素:バイオセンサーなどへの応用に期待
理化学研究所(理研)の渡辺恭良氏らによる共同研究グループは、外的刺激により、近赤外と青色の蛍光波長を可逆的に切り替えることができる有機蛍光色素の開発に成功した。カラーセンシング材料などへの応用に期待している。
理化学研究所(理研) ライフサイエンス技術基盤研究センター次世代イメージング研究チームのチームリーダーを務める渡辺恭良氏らによる共同研究グループは2015年7月、外的刺激により、近赤外と青色の蛍光波長を可逆的に切り替えることができる有機蛍光色素の開発に成功したことを発表した。
今回の研究は、渡辺氏を始め、同じくライフサイエンス技術基盤研究センター次世代イメージング研究チームの神野伸一郎客員研究員、谷岡卓大学院生リサーチ・アソシエイトと、内山元素化学研究室の村中厚哉専任研究員らが共同で行った。
共同研究グループは、分子が凝集すると発光する新タイプの有機蛍光色素「アミノベンゾピラノキサンテン系色素(ABPX)」を2010年に開発し、結晶状態で発光させるための基礎研究や、金属イオンセンサーなどへの応用研究などを行ってきた。
今回の成果は、ABPXのさまざまな誘導体を合成している中で、結晶状態で近赤外と青色の異なる2つの発光帯を示す固体蛍光性を備えた誘導体を新たに発見した。この誘導体を「cis-ABPX01」と名付け、その結晶構造と固体蛍光性を調査した。その結果、cis-ABPX01の蛍光発光に関与するキサンテン環部位が、最大5オングストロームの距離まで近接した二量体を形成する際に、近赤外発光を示すことが分かった。また、青色の蛍光発光が単量体の構造に依存していることを明らかにした。
結晶に対する外的刺激による発光の変化についても調査した。その結果、近赤外光を示すcis-ABPX01の結晶を乳鉢上ですり潰し、分子をバラバラにしたところ、近赤外発光の強度が弱まり青色の発光が増大するメカノクロミズム特性が現れた。一方、色素分子の並び方をバラバラにしたcis-ABPX01の粉末に、溶媒分子(CH2Cl2)を含む蒸気を暴露すると、cis-ABPX01の結晶構造が再形成され、近赤外の蛍光強度は回復することが分かった。このことは、cis-ABPX01の近赤外蛍光と青色蛍光は、すり潰しなど力学的な刺激やガスの暴露といった外的刺激により、波長を変換できることを示すものだという。
共同研究グループは、今回開発したcis-ABPX01の応用についても紹介した。例えば、ある材料に近赤外光を示すABPXを混在させ、その材料に加わる力や摩耗の程度を青色発光させることで、容易にモニタリングすることが可能となる。また、これまで困難とされてきた生体組織や細胞に加わる力を画像表示するためのバイオセンサーなど、カラーセンシング材料への応用なども挙げた。
今回の研究成果は、米国化学会(ACS)誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版(2015年5月27日号)に掲載された。2015年9月11日には科学技術振興機構(JST)が東京都内で開催する新技術説明会で発表される予定だ。
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