産学官連携で挑むCNT、ついに量産工場が稼働へ:日本発の新材料でイノベーションを(2/2 ページ)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、日本ゼオンがスーパーグロース法を用いたカーボンナノチューブ(CNT)の量産工場(山口県周南市)を稼働させたと発表した。
単層CNTの高い期待
CNTは、1991年に飯島澄男氏が発見。多層CNTと単層CNTがあるが、特に単層CNTは、軽量かつ高い強度、高電気伝導性、高熱伝導性を持つことから、デバイスや機器などの性能を高める素材の1つとして期待を集めている。2015年7月には、CNTを応用したキャパシタが発表された*)。
*)関連記事:アルミ電解コンデンサと同等性能で体積は1000分の1! 超小型のカーボンナノチューブ応用キャパシタ
CNTの研究は、NEDOプロジェクトを通じて、産業技術総合研究所(以下、産総研)と日本ゼオンを中心に行われている。2003〜2005年度の「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」では、産総研の畠賢治氏によりSG法の基盤技術が開発された。
2006〜2010年度の「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」では、SGCNTの量産技術を開発。2009年度からは、経済産業省補正予算事業により実証プラントの運営を開始し、2011年にサンプル製品を提供するまでに至っている。
産学官全体が協力体制を
2013年からは、日本ゼオンが事業化を見据えてSGCNTのサンプル提供を開始。2014年4月に量産工場を建設することを決定し、現在に至っている。産総研のナノチューブ実用化研究センターで主席研究員の湯村守雄氏は、「産学官連携で、役割分担をうまく行いながら研究を進めてこられた。高性能で安定したSGCNTを供給し、日本発の新しい材料として、日本経済の発展に貢献することを期待している」と語る。
また、荒川氏は「SGCNTが事業化に至った秘訣は、産総研、日本ゼオンともに事業化したいという思いを抱いたからである。本来企業が独自で行うコストダウン研究に産総研自らが積極的に関わってくれた。畠氏は研究に、湯村氏はCNTの著名な研究者でありながら縁の下の力持ちとして引き受けてくれた。日本ゼオンは、経営陣が初期からバックアップを行ってくれた。産学官全体が協力体制を組んで、ここまでこられた」と語った。
ゼオンナノテクノロジーの社長である荒川公平氏。30年前に多層CNTの研究を行っていたが、断念せざるを得ない状況になり液晶ディスプレイの研究に携わっていた。2005年に畠氏と湯村氏にSGCNTを紹介してもらったときに、良い産業になると印象を持ったという。「30年前にやめざるを得なかったCNTに再開することができて、なんとしても事業にしようという強い思いがあった」と会見場で語った。 (クリックで拡大)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- アルミ電解コンデンサと同等性能で体積は1000分の1! 超小型のカーボンナノチューブ応用キャパシタ
産業技術総合研究所のナノチューブ実用化研究センターは、電極材料に単層カーボンナノチューブ(CNT)を利用した超小型のキャパシタを開発したと発表した。アルミ電解コンデンサと同等の性能を持ちながら体積は1000分の1になるという。 - “リンゴの木”からコンデンサ! 量産目指し本格研究に着手
エルナーは2015年7月、リンゴの枝から作る活性炭を電極材料に使ったコンデンサの高機能化とその量産に向けた研究を実施すると発表した。 - 立体交差もできる! 銅の100倍電流を流せるカーボンナノチューブ材料で微細配線加工に成功
産業技術総合研究所と単層CNT融合新材料研究開発機構は、単層カーボンナノチューブと銅の複合材料による微細配線加工に成功したと発表した。高い信頼性が要求される車載用デバイスや大電力を扱うデバイスのバックエンド配線をはじめ、シリコン貫通ビアやインタポーザなどでの応用を目指す。 - 産総研、半導体型単層カーボンナノチューブの選択的合成に成功
産業技術総合研究所は、半導体型単層カーボンナノチューブ(CNT)を選択的に成長させる技術を開発し、半導体型単層CNTの選択率向上による薄膜トランジスタの特性向上を実証したと発表した。